@ルーザー(その3) 23(終) 投稿者:BECK 投稿日:2000/07/16(日)07時58分04秒 ■ ★ 私の視界に入るすべての風景が狭窄してゆく。緑、白、黒、灰色の4色で構成される世 界がゆっくりと閉じ始めた。私は今まで歩き続け、見てきた物を感じた物をすべて緑色 のカンバスへと白色の絵の具を垂らして描いた。この奇妙な世界の中で春が終わるのを 味わい、そして夏が来た。私はこの世界のすべてのイカレタ住民たちに感謝した。 そんなことを考えながら、私がまず始めに何をしたかというと、街外れにある原色の赤 と白の縞模様の付いた、大きくて高いアンテナ塔のような建物に向かって歩いた。私は そこの1番高い場所へと登り、外界からまったく遮断されたこの高い塔から街を眺めた。 ここからは何もかもが見えた。 あそこでは、数人の高校生が1人の初老男性にリンチを加えています。あそこでは、数 人の男性が1人の女性を輪姦しています。あそこでは、少年が幼児を鈍器で殴り殺して います。あそこでは、小学生が麻薬を買っています。あそこでは、小汚い奴が首を吊ろ うとしています。あそこでは、おばあさんがダンプカー轢き逃げされています。あそこ では、乞食が自慰をしています。あそこでは、莫迦が世界制服を企んでいます。あそこ では、核ミサイルのボタンを押しそうな青年が歩いています。 私はここですべてを抹消させる計画を立てようと思った。まずは紙とペンを用意して具 体的な起承転結を練り、それを文章化して論旨を整え吟味検討を繰り返し1つの巨大な 草案を作り出す。そして脳内議会に提出して、会議は踊り続け殴り合い殺し合いの果て についに可決。それを粗末なタイプ・ライターで清書して、それをこの高い塔(赤と白 の)や高いビルから勢いを付けて放り投げ、勢い余って落下する。 それは風に乗って各地に運ばれて、その大半は塵と失われて何の意味の成さない。その 一部を拾った人間は、それに書いてあった一文に惹かれてそれを基にまったく新しい巨 大な草案を作り出す。彼も当然、高い所から放り投げた後に落下した。そしてそれは、 やはり風に乗って各地へと流されてその大半はクズと化してしまった。しかし、それは 同じく伝染病のように誰かの手へと渡り、再び繰り返される。その度に、絶望的な人間 たちは同じ惨劇を繰り返し、何ひとつ報われないままこの世を去っていく。それは不幸 以外の何物でもなかった。 出した手紙の返事がまだ返って来ない時は、高い所から紙切れをばら撒き続ける人間達 を思い出せばいいと思った。彼らは不幸であるが、救い難い不幸ではあるが、どうしよ うもない人間ではあるが、そんな事は取るに足らない、誰かに語って聞かせるような物 ではない。何時の日か、高い上空から粗末な紙切れが降ってきた時は無視する方が良い。 その粗末な紙切れは、ただ無意味に無作為に人間を落伍させ不幸にさせる。 そんなことを考えている内に太陽はすっかりと落ち込み、夜になった。塔を降り街に向 かって歩き始めた。街の中へと入ると、私は服の中に右手を入れて人とすれ違うたびに ナイフに見立てた空気をにぎりしめた。そのまま駅に向かって歩き、私はどこか遠くに 行こうと思った。適当な金額の切符を買うと、プラットホームに降りて2分後に来た電 車に乗った。私は「ガタガタ」と揺られ運ばれていった。 しばらくして、私は降りる駅で悩んでいた。仕方が無いので適当な駅で降りた。私はそ の降りた駅で線路に飛び込む事を考え、先に誰か飛んでくれたら私は飛ぶ必要は無いの になあ、と思いながら、また次の電車を待ち、何となく親指の爪を噛み切った。切った 爪を舌でもて遊び、舌に刺しながら、さっさと吐いて捨てた。 それから、私が自分の家に戻ったのは3時間ほど後のことだった。酷く疲れていて、と ても眠かった。自分の部屋に入りベットに寝転がり、今は何時なのかと思い時計を見た ら電池が切れていた。換えの電池は無かった。私は役立たずの電池を取り出して、舌で マイナス部分を舐めると少し痺れたような感じがした。気持ちが悪かった。 窓からそばの下水溝に投げて捨てた。いつかそれは錆び果てるのだろう。役に立たなく なった電池からは有害な物質が出てくる、私はそれが次の使命だと思った。役に立たな い物からはろくな物が出てこない。すべてが無駄、すべてが有害、すべてが劣悪。不意 にベッドの横に置いてあるカッターナイフを手に取ると、少し錆びが出ていた。何も切 っていないのに金属臭の混じった生臭い臭いがする。その錆びを爪で落とそうとするが 深爪が酷くて取れない。放っておくと、錆びはどんどん広がってゆく。仕方が無いので、 無理に痛い思いをして爪で錆びを掻き取った。そしてすぐに眠った。 目が覚めると、すっかり正午を過ぎているようだった。太陽が高く上がり部屋の中がじ っとりと暑く、肌がかなり汗ばんでいた。部屋の窓を開けると抜けるように晴れ渡って いて、青い空の彼方此方に大きくて真っ白な入道雲が浮かんでいた。部屋の中に溜まっ た汚れた空気が外に流れてゆき、私は外から流れてくる清潔な空気を肺いっぱいに吸い 込んだ。その空気が体中に流れる。多分、私はこれからもこうして生きて死ぬのだろう。 反吐を吐き出して、それに憎悪や悪意が絡み、血液と精液を吸い取り、簡単に消え去る。 私はズボンの中から、昨日買った大量のはがきと封筒と切手と大量の便箋とシャーペン とその芯とボールペンを取り出した。そして、誰にも送る宛てのない手紙を書き始めた。 投稿者:BECK 投稿日:2000/07/16(日)07時57分46秒 ■ ★ ルーザーはこれで終わりです。今まで長い時間どうもありがとう 付録 物語の流れ 投稿者: 投稿日:2000/05/25(木)12時46分04秒
主人公(西郡彦嗣)マケイヌ部に入部 ↓ マケイヌ部の部集会に間に合わず ↓ 侮辱してきた女生徒をレイプ ↓ マケイヌ部に行くも休み ↓ 過去の記憶とバスジャックについて思う ↓ 公園で幼女を殺害(その記憶は喪失) ↓ 屋上でレイプを傍観した女を見かける ↓ その女に拒絶され錯乱しマケイヌ部へ ↓ 主人公、生い立ちのモノローグ ↓ マケイヌ部に乗り込むも逃げ出す ↓ プールサイドで感傷に浸り女生徒殺害を決意 ↓ 屋上で武器を用意して待ち伏せ ↓ 逆に重傷を負わされて女生徒は自殺 |