@ルーザー(その1)


1  投稿者:BECK  投稿日:2000/05/02(火)09時48分08秒  ■  ★ 

      私は悩んでいた。この春から私が収容された学校にはいくつもの団体が存在したから
      だ。内向的な私はまったくの接点が無い状態で人と関係を築く事のできない落伍者で
      あった。故に何らかの集団に属してそこで刺激的な人間関係を築こうと目算していた。
      校内の掲示板には各団体の構成員募集のチラシがたくさん貼り付けてある。それらを
      ひとつひとつ吟味した。

      「包茎で悩んでいる男を殺そうの会・パンクス撲滅連盟・ヴィジュアル系批反部・受
      波脳研究会・反支那戦線・女高生襲撃部・ダウン症児童愛好会・日本体育会系虐殺連
      合(日体連)・麻薬部・ダストハンティングクラブ・強姦部・輪姦部・人工進化研究
      所・ぺドフィリア解放同盟・電子ノイズ愛聴者の集い・切腹部・トレンチコートマフ
      ィアジャパン・奈落のクイズマスター・名誉白人サロン・拷問研究会・特殊物理学部
      ・無気力製造工場・関東軍防疫給水部(731部隊)・学窓会第13支部・根暗方面
      軍・地下教会・地下文芸部・サイキッカー養成所・心の病専科・中央ブランカブロッ
      コ連立方程式…etc」

      などなど、どれも一癖ある、自分の力を最大限に解放させてくれるような団体がいく
      つもあった。しかし、さすがにこれだけの数を見て食傷気味になりどれを選んで良い
      ものかほとほと困っていた。別にどれでも良いのだが、どうせならマンネリとした日
      常を破砕してくれるような物が良かった。仕方なく、後門前の広場で構成員勧誘の場
      が設けられているのでそこに足を運んでみた。

      「あまねく全ての汗臭い体育会系男に死を!」
      「今こそ我々ロリコンの市民権を掴み取ろうではないか!」
      「悪魔の思想共産主義を弄する支那共に天誅を!」
      「ただいま入部されますともれなく幼児の身に着けた…」
      「人類のヒテロ化を現在の20倍の速度で進化させるためクローン研究の自由化を…」
      「だんだん小さくなる世界で僕達は無限にゼロを目指そう!」
      「この世に文句しか言えない老人よ奴等はあんた等のために立ち上がるぜ、この世に
      大量虐殺を齎す国会大量大虐殺!」
      「人体実験の基本はかの石井四郎中将の申す所ヒトを丸太と認識する事によって医療
      科学の漸進性の批反を…」

      といった煽情的なアジテーションが各方向から飛んでくる。各団体に宛てられたブース
      にはたくさん人だかりができており側に近寄る事はできなかった。他人の体に密接した
      り体臭を嗅がされたりするのを極端に嫌う私は近寄る気もせずただ眺めていた。各団体
      のブースを遠巻きに眺めながら歩いていると比較的人の少なかった拷問部のブースで歩
      を止めてみた。机上には手錠やら足枷やら焼きごてやら鉄の処女のミニチュア模型など
      が並べられており、それに混じって首輪や蝋燭や猿轡といった類のアイテム並べられて
      ありSM部も兼ねているのではなかろうかと思った。人の肩の隙間から覗いてみると、熱
      心に見学者に説明をしているのはなんと女性であった。はた目にそんな趣味を持ってい
      る事など微塵も感じさせぬほど整った顔立ちで、とても美人であった。世の中まだまだ
      捨てた物ではないなと思い、彼女の拷問シーンを思い浮かべてみて気違いのような笑み
      を浮かべた。でも生憎は私の中での拷問ブームは3年も前に廃ってしまったので入る気
      は無かった。

      果たしてこれからどうすれば良いものかと考えていると、端の方で人1人居ない寂れた
      ブースに目が止まった。そこは、マケイヌ部[for all loser]と書かれてあった。私は
      なんとなく引っかかる物が在ってそこに歩を進めた。


2  投稿者:BECK  投稿日:2000/05/03(水)02時16分40秒  ■  ★ 

      マケイヌ部のブースには粗末なパイプ椅子に座った男が1人居て、ヘッドフォンをはめ
      て頭を深く下げて音楽を聴いており私の存在に気まったく気付いていなかった。「すい
      ません」私は声をかけたがまったく気付かれなかった。何時か気付くのではないだろう
      かと思い、そこに20秒ほど立っていたが一向に気付かれないので嫌だったが目前の男
      の肩を叩いて私の存在を知らせた。すると男はヘッドフォンを外すわけでもなく、至極
      不快、といったような表情で顎をしゃくりあげて机上の汚い印刷の紙切れを指した。こ
      の手の人間に慣れ切っている私は別に何の不快感も感じずその紙に目をやった。そこに
      は2001年度新規入部者名簿と書かれてあり、誰一人としてそこに記入した者は無か
      った。私はその名簿に名を書き込もうと置いてあったHBの鉛筆を手にとって書こうとし
      たら芯が折れていた。これには腹が立ち、書くのを止めようかと思ったが自分のシャー
      ペンを取り出し西郡彦嗣と記した。当然、偽名である。その場から立ち去ろうとした瞬
      間、さっきまで私の事などまるで気に留めていなかったマケイヌ部員がヘッドフォンを
      はずし私に向かって「明日、北棟501教室で部集会があるから」とだけ言うと再びヘ
      ッドフォンをはめて音楽を貪り始めた。

      私がこの学校に収容されて初日の授業は惨憺たる物だった。

      「てめえ、俺を誰だと思ってやがる!」「ばかにすんじゃねーよ、俺の事を!」
      「うそじゃねー俺はやってねー」「きゃー」「静かにしろぉ!」
      「おい、こいつ血が出てるぞ!?」「先生、帰ります」
      「今俺に消しゴム投げた奴誰だ!」「え? なになに? 死んじゃった?」
      「早く救急車呼べ!」「何で私ばっかりこんな目にあうんだ」
      「おい、それはやべーって」「うわあ、火だ! 火が出た!」
      「きゃーひとごろしー」「たーすーけーてー」「今なんて言った?」
      「誰がこんなもの持ってきたんだよ、勘弁してくれ」
      「臭ッ」「えらいことなっとるぞ」

      そんな怒号が飛び交い、硝煙の臭いとサイレンの音が聞こえ始めた時すべては収まった。
      放課後になったので部集会に向かおうとそそくさと席を立ち教室を出ようとしたら隣り
      に居た女生徒が失神した。何か嫌な予感がして私は振り返りもせず教室を後にし、後に
      後悔する羽目になった。北棟に入ると彼方此方の教室で部集会が行われているらしく

      「お前ら騙しやがったな!」「ふざけるな! そんな事は聞いてないぞ」
      「もう遅い」「離せ! 離しやがれ! やってられるか」「おいっ! 逃がすな!」
      「ぎゃー」「声を出すな」「パァン! パァン! パァン!」「ぱりーん」

      といった騒々しい音が聞こえてうるさくて仕方なかった。階段を上がるたびにその喧騒
      は遠のいていった。階段を上がっている途中何度も倒れている生徒を見かけたが良く見
      ると全員酔いつぶれているだけだった。やっとの思いでマケイヌ部の部室まで来ると何
      の怒号や悲鳴も聞こえなくなり、ここの階段が必要以上に長い事を知った。取り敢えず、
      考えておいた挨拶の言葉を胸から引き出し準備してから部室の扉を開いた。すると数人
      が床に倒れていた。壁にもたれ掛かって倒れている者やうつ伏せに倒れている者や仰向
      けに倒れている物などさまざまなバリエーションだった。室内には煙が充満しており、
      何か阿片窟を思わせる佇まいであった。この人達は何をしているのだろうかと酷く疑問
      に思ったが、口には出さず「すいません、昨日この部に入った者ですが」と用意してい
      た言葉とはまったく別の言葉を放った。すると倒れていた部員と思われる男が言った。

      「お前運が悪かったな、今日の活動はもう終わった。今日はもう全員使い物にならない。
      明日出直してくるんだな」

      そして、今度は地面にがっくりと崩れ落ちた。まったく意味が分からなかったがとにか
      く明日出直してこなければ行けないようなのでその場を立ち去ろうとした瞬間「ズガー
      ン」と大きな音がして本館1階の窓ガラスがすべて吹き飛んだ。辺りから激しい銃声が
      聞こえ、人々の悲鳴がここにまで聞こえてくる。ゆく当てを失った私はそれを見る事に
      した。暫く眺めているとそれはサイキッカーと軍部の抗争である事が分かった。紫電と
      火薬が弾け飛ぶ中、戦いは軍部側の勝利で終わったようだ。


3  投稿者:BECK  投稿日:2000/05/04(木)08時16分26秒  ■  ★ 

      階下に降りていくとさっきの戦闘で頭を割られ脳髄をぶちまけた軍部構成員やMP5で蜂
      の巣にされたサイキッカーの死体が散乱しており、血と煙硝と臓物の混じった吐き気を
      催すような異常な臭いが漂っていた。それらに大量の人間が群がっていて、死体写真部
      の連中が何度もフラッシュを焚きながらそれを撮影し、人肉愛好会の連中が散らばった
      肉体を拾い集め新鮮な肉をその場で食し、残り粕である人骨はネクロラヴァーズのメン
      バーが持ち帰り、拷問部の連中が虫の息の負傷者を嬲って射精している。そんな風景を
      見て私はつくづくとんでもない所に来てしまったなと思った。それにしても、マケイヌ
      部は一体どんな活動をしているのだろうか? さっき見た限りではかなりの肉体的苦痛
      を味わう事になりそうだ。それを考えると少しばかり憂鬱な気持ちになった。

      朝、学校に登校する途中にボウガンで打たれそうになった。暗殺部の連中だ。こう引っ
      切り無しに命を危険にさらしていては精神衛上良くないのでこれからは充分に武装しな
      ければならないなと思った。後門前に放置してある生首をひょいと飛び越えながら校内
      に入ると持ち物検査が行われていた。
      「なんだこれは?」「違いますよ」「何が違うんだ?」「パァン!」
      風紀員が頭から血を流しその場に倒れると生徒達は何も無かったように歩き始め勘違い
      も甚だしい奴を軽蔑した。自分の教室に入るといくつかの机上に花が飾られていた。葬
      式ごっこなのか本気なのかは知らないが、教卓の上にもある事を考えるとあながち冗談
      でもなさそうだ。私は自分の机に座ると今日の1時限目は反射量子力学である事に気付
      き教室を立ち去った。あの科目の授業は必ず死人が出るからだ。私はそんな茶番に付き
      合うような甲斐性は持っていない。

      そのからの私は完全にイカレテいた。私は学校中の水道の蛇口を開けて回り始めた。
      「ジャバー」「ジャバー」「ジャバー」「ジャバー」「ジャバー」
      こうやってひとつひとつ水道の蛇口をひねってゆくと射精に似た快感がこみ上げる。一
      直線に伸びる水の軌跡を眺めているとえもいわれぬカタルシスを感じる事ができた。北
      棟の3階まで蛇口をひねって回ると1人の女生徒が肩を怒らせて私に近づいてきて
      「アンタ何やってるの!?」
      と言った。何も答えずぼーっとその場に立っていると女生徒はさらに怒りを露にして
      「何やってんの? 頭おかしいんじゃない? この気違い! 変態! 汚らわしい狂人
      ! 親の顔が…!」
      私は女生徒の髪の毛を鷲づかみにすると腹に膝を食らわせた。
      「おううえェ」
      と女生徒は胃の内包物を吐き出した。私はそのまま髪の毛を掴んだまま女子便所に連れ
      込み鍵を閉めた。
      「ビリッビリリッ」「何すんのよ、やめて! やめて!」「ビリリリーッ!」
      「キャ…!」「ガスッ! ボグッ!」「チャキ、ガサガサ」「ズブッ」
      「………………………」
      「ハア…ハア…」「フウー」「グッ」「ガンッ! ガンッ! ガンッ!」
      女子便所から出ると水道で手に付着した破瓜血やら鼻血やらの返り血を洗い流し、私は
      強姦部に向いているのではないだろうか? と排水溝に流れてゆく血液の混じった水道
      水を見つめながら思った。


4  投稿者:BECK  投稿日:2000/05/05(金)04時18分05秒  ■  ★ 

      水道で長い時間をかけて手を洗い終わると、私は何もする気がせず色々と考え事をしな
      がら校舎を歩き回った。理科実験室の前まで来ると
      「アヒィ」「もうやめてくでー」「寒い寒い寒い寒い」「こんなの犯罪だ!」
      「もっと風を送れ」「痛い!」「ここんとこ壊死してるか?」「まだだね」
      という被験者の下品な悲鳴と淡々とした口調の声が聞こえてきた。中を覗くと何人かの
      生徒が凍傷実験を受けさせられている。731部隊の連中だ。この部は人間に馬の血液
      を輸血したりペスト爆弾を作ったりなかなか人気のある部だ。しかし、入部時に試験が
      あり高度な医療知識が必要とされその門は狭い。医者の息子や資産家など特権階級の家
      出身の者が多く、上流意識が強く嫌われている部分もあり暗殺部の格好の獲物でもある。
      あまり関わり合いたくなかった。

      私はそそくさとその場を離れると保健室に向かった。朝食が悪かったのか酷く胃痛がし
      てきて、今すぐ横にならないと死ぬような気がしたからだった。保健室には汚ねえ保険
      医のババアが1人おり、私はこれに童貞を奪われたという奴を何人も知っている。こん
      なのに童貞を奪われたのでは死ぬしか無いと思い少し不安だった。私は、気分が悪い、
      という事をババアに告げるとベッドに入った。30分くらい時間が経ってウトウトし始
      めた時だろうか? 私の股間をまさぐるものがあり、目を向けると色気づいた顔したバ
      バアが私のベッドに入ってきていた。私は精一杯の力を込めるとババアの顔面を思い切
      り殴った。グギッと鼻柱が折れる感覚を拳で味わうと、私の心は酷く落ち着いて眠りに
      つく事ができた。

      授業の終わりを告げる鐘で目が醒めた。時計を見るともう放課後で陽も落ち始めてきた
      ようだ。荷物を取りに自分の教室に戻ると酷い悪臭がしており大便まみれの女生徒が死
      んでいた。彼女は普段、男子生徒から公衆便所のように扱われる性奴隷だった。彼女は
      性奴隷には向かないのか、しまりが良くないとかフェラチオが下手だとか評判は良くな
      かった。私も一度、彼女と性行為をした事があったが確かに良い物ではなかった。でも
      顔立ちは悪い方ではなく、見ようによっては愛らしくない事も無い。しかし、なんて死
      にざまだろう。殺されたのか自殺したのかは知らないが、生きていれば何かしら良い事
      があるはずだ、などというセリフは彼女にだけは当てはまらないような気がして私は少
      しさびしい気持ちになった。

      荷物を回収した私はマケイヌ部の部室へと向かった。昨日は運悪く参加できず、今日こ
      そはという気持ちも在って珍しく軽い足取りを取り戻して歩いた。部室のドアを、ゴン
      ゴン、と叩いてから開けて中に入ると誰も居なかった。まだ誰も来ていないのだろうか
      ? と思い、仕方なく置いてあったパイプ椅子に腰をかけると何も考えずぼーっとして
      いた。10分程経過しても誰もあらわれず、さすがにおかしいと思い立ち上がると壁に
      粗末なプリントが貼り付けてあり「スケジュール表」と書かれてあった。それを見ると
      今日は休みだった。軽い失望感を得た私は一気に気力を失い酷く気が滅入った。近頃こ
      んな事の繰り返しのようだ。何もすることが無いので私は部室の窓を開けると、沈んで
      ゆく太陽に全身を真っ赤に染められながらその風景をずっと見ていた。その夕陽がもっ
      とも赤くなる瞬間、私は誰かの断末魔の悲鳴が聞こえたような気がした。


5  投稿者:BECK  投稿日:2000/05/07(日)19時42分53秒  ■  ★ 

      学校を出ると陽も沈みきりすっかり薄暗くなっていた。この時間帯、外から見るこの学
      校は何か得体の知れないどす黒い悪意の塊のように見えて私は少し気が滅入った。この
      まま、こんな所に居たらいつ死んでしまうか分からない。そう思うと、私はすぐそばを
      歩く小学生(低学年)の腹を力の限り蹴り上げずには居られなかった。巨大な不安に襲
      われた時、それに耐えられず無性に暴力的になってしまうのは私の悪い癖だと他人に指
      摘された事がある。ましてや、無力な子供に暴力を振るうなど最低の人間がする事だと。
      そう言いながら、そいつは老人を鉄パイプで殴り殺した。その時に浴びた返り血はいま
      だに私の皮膚を熱く焦がしているように感じる。私は自転車に乗り学校を離れ、イカレ
      タ住民達が暮らす町へと消えていった。途中、何人か人を跳ねた。
      自転車で大通りに出てすぐ、子犬が乗用車に跳ねられて死ぬのを見た。その時、長い間
      忘れそうで忘れなかった過去の記憶がよみがえった。

      いつの日だったか、私の友人が車に跳ねられて死んだ。私の目の前で死んじまった。可
      哀相だった。でも、跳ねられるように仕向けたのは何を隠そうこの私だった。すみませ
      ん。仕方が無いのでそいつの墓を作ってやる事にした。私の住んでいる所のすぐ近くに
      ある巨大な神社の森の中。そこに作ろうと思い、私はスコップを持ってそこに行った。
      幼い頃、捨ててあった子犬を持って帰ってきたら親が飼ってはダメだとか言いやがった
      ので、仕方無くその神社の森深くに穴を掘り、そこを子犬の住みかとして世話をしてい
      た。最初の2日くらいは食事の残り物やミルクを持っていってやったが、しかし、私は
      ものすごく物忘れがヒドイ。それから2ヶ月もほったらかしにしてしまった。急いで森
      に向かうも時すでに遅し。あんなに可愛かった子犬は腐り、蛆虫がたくさんわいて、そ
      れはとてもグロテスクで思わず笑ってしまった。可哀相に。子犬は私が無意味に深く掘
      った穴を登れずに死んだのだ。だから、私は深い穴という物にトラウマを持っている。
      友人の骨を埋めてやる時は、なるだけ浅い穴を掘って埋めてやろうと思った。

      そんな事を思い出しながら家に帰ると家族は誰も居なかった。とても空腹だったので何
      かしら食事でも用意してあるだろうと思い、食堂に入ってみると何も無かった。恐らく、
      家族は私にエサを与えるのを忘れているのだろう。あの時の子犬の気持ちを味わいなが
      ら、私は何も食べる気が無くなりテレヴィジョンを付けた。すると、精神科に入ってい
      た少年がバスを乗っ取り、立て篭もっているという事件が報道がされていた。人も一人
      殺しているらしい。その異常少年は刃物で小さな女の子を人質にとって何かを要求して
      いるという。テレヴィジョンに出ている人達は、女の子の身柄が心配だとか言っている。
      でも私は、きっとその女の子は刃物を突きつけている少年に恋をしているのではないだ
      ろうかと思った。ずっと見ていると、少年は警察に捕まってしまい事件は終わってしま
      った。女の子は無事だったのだろうか? 
      私は空腹感が戻って来ない内に眠ってしまおうと思い布団に入ったが、3時間ほど眠っ
      た頃に目が醒めてしまった。私は眠れなくなったので外に出る事にした。


6  投稿者:BECK  投稿日:2000/05/09(火)17時41分13秒  ■  ★ 

      外に出る前に買っておいた刃物やスタンガンを机の引出しから取り出すと、ポケット
      に入れた。最近、やたらと物騒なのでこういう物も必要だと考え揃えておいた。外に
      出ると寒くもなく暑くもなく、ただ生臭いにおいが漂っていて本当にどうしようもな
      い所だと思った。歩いて駅まで行くと、青臭い阿呆が各々楽器を手に取ってつまらな
      いくだらない歌を唄っていてうるさい。あの連中の貧弱なテクニックから生み出され
      る音楽は私の神経を逆撫でさせる。何が「この世で誰かが僕を必要にしているのなら
      教えて欲しい?♪」だ。私は人間を馬鹿にしていると思った。あまりにも腹が立った
      ので警察に電話をかけた。
      「はい。×××警察署」
      「すいません。×××駅前で変質者が暴れてます。死人がいます」
      「本当ですか!? 今すぐ参ります」「はい。すぐ来てください」
      「あ、あと貴方のお名前は?」「西郡彦嗣です」
      私は平然と偽名を名乗ると電話ボックスを出てさっさとその場を離れた。暫く駅から
      歩くとパトカーのサイレンが聞こえてきて私は気違いのような薄ら笑いを浮かべた。

      そのまま歩き続け、公園の前まで来るとキィキィと何かが軋む音が聞こえた。誰か居
      るのだろうか? と思い公園に入ると小さな女の子が一人でブランコに座っていた。
      公園に設置されている街灯が煌々と彼女を照らし、幼い影がブランコの揺れに合わせ
      て短く伸び縮みしていた。ブランコから足が地面に届いておらず、それはまだまだ幼
      い事を察知させた。それを見た私は妙な昂揚感を覚え彼女に向かって歩き始め、何故
      か忍び足になってしまうのは我ながら情けないと思った。パキッと音がして私は小さ
      な小枝を踏み折ってしまい、その音で彼女は私の存在に気付いた。その瞬間、私の対
      人恐怖症が発作のように起こり大量の冷や汗が分泌され始めた。何とか怪しまれない
      ようにと思いほほえみを浮かべようとしたが、明らかに気違いの笑みになってしまっ
      た。これはもう殺るしか無いと思った。

      悲鳴を上げられる前に頚動脈を切り裂いてやろうと刃物を握ったが、以外にも彼女は
      私に無垢で愛らしいほほえみを返した。逆に私は殺人寸前の凄まじい形相になってい
      た。それを見た彼女の表情はみるみる内に恐怖の色に染められ、悲鳴をあげた。
      「ウワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
      私は奇声をあげると走り出し、刃物を血が出るほど握りしめて彼女の腹を刺した。女
      の子体はブランコから離れると音も無く地面に落ち、激しく揺れるブランコはギィギ
      ィと軋んだ。私は何度も何度も刺した。ぐちゃぐちゃと血と内臓と刃物が擦れ水っぽ
      い音を立て、生暖かい血が私の全身に飛び散り、飛び出した内臓が地面にぶちまけら
      れ、それでも何度も刺した。そして、私は泣いた。泣いて、泣いて、泣いて、泣いた。
      血と臓物の臭いでむせ返りそうになりながら、それでも泣いた。涙はもう枯れ果てた
      はずだったのに、まだこんなに残っているとは思わなかった。
      私はもう完全にイカレテいた。彼女は私にほほえんでくれたのに。それなのに殺して
      しまった。今なら彼女をえいえんに愛する自信がある。でも、もう死んでしまった。
      私は死ぬしか無いと思い刃物を喉に刺そうとしたが、痛いのが嫌なので止めた。

      それから、泣きながら全速力で走って家に帰った。空は真っ暗闇で私の心の中も真っ
      暗だった。血の付いた衣服を捨て、シャワーを浴びて返り血を流した。女の子の血が
      シャワーから流れる水に混じり、渦を巻いて排水溝へと流れるのを見て、私はまた少
      し泣いた。体中の節々が痛く、精神的にかなりまいっていたのでベッドに入りすぐ眠
      った。そして、彼女の夢を見た。目が醒めると枕がひどく濡れていた。


7  投稿者:BECK  投稿日:2000/05/11(木)13時27分36秒  ■  ★ 

      酷く頭痛がする。枕に手を当てるとべっとり濡れている。私は何故か昨日の夜、何をし
      ていたのか思い出せない。ただ、愛らしい女の子の笑顔だけ不思議と覚えている。その
      映像が頭の中で何度も意識化され、そのたび何か酷く胸を締め付けられる思いがする。
      不意に手の平に痛みが走り、見てみると爪が食い込んだような傷が有る。まだ生々しく、
      破れた皮膚から赤い肉が覗いている。こんな傷いつできたのだろうか。何とか思い出し
      てみようとするが頭痛が酷く、上手く頭が働いてくれない。何か意図的に記憶の再生を
      封じる機能が働いているようにも感じる。
      これ以上は考えても無駄だと判断し、登校する準備を始めた。階下に降りて行くと両親
      が居ない。何処に行ったのだろうか? それを考えると、さっきと同じように酷い頭痛
      が走りもう何も考える気がしなくなった。今朝は何も食べる気がせず、湯を沸かしコー
      ヒーを入れて飲むが苦過ぎてとても飲める物ではなかった。そのせいか、酷い吐き気を
      催し頭痛と相成って死にそうだ。さらに、筋肉痛のような痛みが全身に走っている事に
      気付いた。何故こんなに体調が悪いのだろうか。私の疑問はいつも解消されたためしが
      無い。

      玄関を出て空を見ると酷く曇っていた。私はここ何日も晴れた空を見た記憶が無い。私
      は何時までこんな日が続くのだろうかと思った。重いペダルをこぎ自転車を走らせ始め
      た。駅を横に通り過ぎ、近くの公園の前に差し掛かるとそこにはパトカーが止まってお
      り沢山の人だかりができていた。私はそんな物はまったく気にせずひたすら自転車をこ
      いだ。どうせ馬鹿が首でも吊って醜態を晒しているのだろう。私には不思議と自殺願望
      は無かった。死んだら確実に地獄に落ちるというのは当然だが、それ以前に火葬される
      時に何だか痛みを感じそうだったから。死ぬ時は独りになって腐って土に返ろうと思う。
      でも多分、私は碌な死に方はしないはずだ。例えば刑死か獄死。

      学校に着くと自転車を駐輪場に持って行き、邪魔だった他人の自転車を何度も蹴飛ばし
      倒して停めた。その様子を校舎の窓から、気違いを見るような目で私を見ている女生徒
      が居た。必ず犯す。
      自分の教室に入ると私以外の生徒が全員そこに居た。その時、何故か異様な疎外感を感
      じた。私はこのクラスに居る人間が全員大嫌いだった。常々まとめて死んでくれないか
      と思っていた。そうなったらこのクラスの生徒は私だけになる。そうなったら恐らく学
      校を辞めるだろう。くだらない矛盾を感じながら自分の席に座ろうと思ったが、誰かが
      私の席に座っていた。私は対人恐怖症なので、どけ、の一言が言えない。その代わり頭
      の中で殺す。仕方が無いので水でも飲みに行こうかと思い水道に向かった。蛇口をひね
      ると冷たい水が流れ出しそれで手を洗い飲んだ。その冷たさを感じるたび、私はこの世
      で一番必要な物は水道なのだと実感した。

      教室に戻ると教師が来ていた。私はこいつは頭が悪いと思っている。なので授業が始ま
      っても何も聞かず、ただ下を向いてぼーっとしていた。暫く時間が経ち、ふと顔を上げ
      てみると私以外の生徒達は一心不乱に前の黒板に書かれている文字を写している。やは
      り、私はその時強烈な疎外感を感じた。私は独りだ。ずっと時間が過ぎるのを待った。
      それから3時間以上もの疎外感を絶え、また少し強くなったような気がした。

      昼食の時間になり、相変わらず何も食べる気がせず屋上に上がってみた。屋上には大し
      た数の人は居らず、3人くらいの男子生徒が談笑していたり、恋人同士がお弁当を食べ
      ていたり、ヘッドフォンかけ音楽を聞いている者など極有り触れた光景だった。私は柵
      にもたれていると、何かぶつぶつと話すような声が聞こえてきた。
      私の数メートル先に居る輪姦されて気の触れた女生徒が何か独り言を言っている。レイ
      プなど日常茶飯事のこの昨今、彼女はそんな事で簡単に頭がおかしくなってしまった。
      ちなみに、私は彼女が犯されるのをずっと見ていた。あまりに抵抗するので男子生徒達
      から何度も顔を殴られ、鼻が折れ歯が折れぐったりした所を何人もの人間に犯された。
      すべての人間が姦り終わった後、彼女は血液やら体液やらで酷い有様だった。彼女は大
      変美人で、私は密かに好意を持っていた。でも何故か助けに入ったり人を呼んだりしな
      かった。別に彼女の汚れる様を見たかった訳ではないが、何故か何もしないでずっと見
      ていた。それは、多分、私が気違いだからだと思う。

      私はまともな神経を持たない人間になら発作が起こらないので、暇潰しに彼女に話しか
      けてみる事にした。


8  投稿者:BECK  投稿日:2000/05/12(金)22時55分53秒  ■  ★ 

      この屋上から見える街の景色は最悪だった。この街の自律神経は設計段階から狂わされ
      ている。まず駅前にはコミュニティー広場なる浮浪者の掃き溜めがあり、そこから放射
      線上に道路が置かれ、同心円状に商店や民家が立ち並び、そこから排泄される汚物のよ
      うに人間達が溢れ出し、掃き溜めへと向かってゆっくり流動する。自転車に乗った女の
      子と散歩している老人の距離がだんだん離れてゆくのが見て取れ、自転車は信号で止ま
      り二者間の距離は同じになった。この街ではどんなに急いでも、すべて均等の基に統合
      されている。私はそんな理不尽な仕打ちに耐えるような甲斐性は無い。私はこの街こそ
      無意味に深く掘られた穴だと思った。

      彼女はこの人間を馬鹿にした景色をいつもずっと見ているようだ。己の穢れた肉体と比
      べて世界を呪っているのかもしれない。私の中に、親近感、という言葉ふと浮かび、何
      か髪の毛を切った朝のような爽快感が込み上げた。私はそんな気持ちを彼女に話したい
      ので、やあ、みたいな事を言って、はにかんだ笑顔を作ってみせて彼女の傍に立った。
      すると彼女は俯いて何かぼそっと言った。
      「え、なんて?」「…うぜぇ……クズ…」
      私はゲロを吐いた。今までの100倍もの対人恐怖症の発作が起こり、精神的な嘔吐感
      が津波のように押し寄せてきて、何も入っていない胃から大量の消化液を吐いた。まさ
      か、私は拒絶されると夢にも思っていなかった。何が髪の毛を切った朝の爽快感を彼女
      に話したいだ! 私は完全にイカレテいた。

      「この糞雌豚絶対殺してやるからな! その前にテメエのケツの穴から腸にゴキブリの
      卵詰め込んで腹ん中で孵化させてやるからな。テメエの恥垢臭せえ口とチンポぶち込ま
      れたケツの穴からゴキブリが這い出てくるんだ。ひゃはははは、こりゃ見物だぜ、ひひ
      ひひひひ。死んでからも犯してやるからな、死姦だ死姦。テメエの糞不味い肉切ってう
      なぎに食わせてやるからな。そのうなぎを俺がうな重にして食ってやる、アハアハハ」

      私はゲロまみれになりながら、目に大粒の涙を溜めてそう言い彼女を突き飛ばし走って
      逃げ出した。その場で殺さなかったのはあまりにもショックが大きかったからだろう。
      私は生まれて始めて自己嫌悪という物を感じた。しかも、俺なんて一人称を使ったのは
      何年振りだろうか? そこには14歳の僕が居たような気がする。あと、私は屋上で幸
      せそうにお弁当を食べている恋人達に悪い事をした気がした。

      それから全速力で階段を降り、途中片足の無い重度身体障害者の生徒とぶつかり階段か
      ら叩き落してしまった。私はそれでも全速力で階段を降りた。さらに北棟まで走り一気
      に5階まで駆け登った。そう、私はマケイヌ部の部室へと向かった。完全に息が切れ、
      ゼイゼイと荒い息を吐き続け心臓マヒか何かで死にそうな気がした。私はノックもせず
      、走ってきた勢いにまかせて思いきり部室のドアを開いた。中には何人かのマケイヌ部
      員が居り私に目を向けた。


9  投稿者:BECK  投稿日:2000/05/16(火)10時55分13秒  ■  ★ 

      僕の名前は西郡彦嗣。198×年生まれの蟹座。
      僕は俗に言う早熟と呼ばれ幼少期を過ごした。自分ではそんな事はないと思っていたけ
      ど、周囲の人間に口々とそう言われた。ただ単純に僕は無口なだけだった。知らない人
      と話すのがすごく苦手だった。だから、ずっと黙っているとませているとか大人びてい
      るとか言われた。それは、子供は明るくて元気で無垢なものという彼らの身勝手な先入
      観で作られた幻想だった。そういう思い違いによって早熟である僕は作られた。根本的
      に僕は作られた人間だ。両親のSEXによって選択の余地も無くこの世に生きる羽目に
      なった。それは本当に幼い頃から思っている。
      そして、私の自意識は屈折だらけのまま成長していった。

      9歳小学校3年生の時、僕の人生を揺るがす事件が起こった。独りで色々な所を散策す
      るのが好きだった僕は、近所の森の中を分け入って遊んでいた。すると、ビニール袋に
      包まれた何かが落ちていた。興味本位で開けて見ると、中に入っているのはいわゆる成
      年コミックという物だった。まだ性のいろはを欠片も知らない頃の事だった。
      それなりの罪悪感を感じながら読んでいくと、変な服を着せられた女の人が口に男性器
      を突っ込まれたり、僕くらいの小さな女の子が大人の男に浣腸され排便させられていた
      り、両手両足を切られた女の人が喜んでいたり、女の人が泣きながら何人もの男に性器
      をお尻に突っ込まれていた。それはSMスカトロ人体改造ロリータ強姦などオールラウ
      ンド鬼畜物の本だった。僕はその時まだ幼いながらも、これは人間の裏の部分なのだと
      直感で分かった。同時に私は非常に性的な興奮を覚えていた。

      僕はその本を全部家に持って帰り、絶対に見つからないように自分の部屋に隠して読み
      まくった。最初は気持ち悪くて何度か吐きそうになったけど、少しずつ慣れてきて僕は
      こういうものを見ていると非常に心が安らぐようになった。僕は9歳にしてSM幼女性
      愛スカトロ強姦人体改造といった変態性欲の存在を知った。そして、すぐ自慰も覚えた。
      僕はマンガの通り自分の性器からまだ白濁としていない粘着性の液体を射出し、それが
      とても気持ちの良いものだと分かった。
      それから、何年後かのちに性的不能になるまで僕は毎日オナニーをした。別に後ろめた
      い気持ちになった事は無かった。ただ、僕の精神はどぶかわに晒されたように汚染され
      ていった。

      中学生になると、元々あった対人恐怖症の度合いが酷くなった。誰にも話し掛けられず、
      話し掛けられても僕は何も答えられなかった。人を前にすると冷や汗が出てきて、ども
      ったり声が裏返ったりして支離滅裂な事しか言えず、変人と思われ2度と話し掛けられ
      る事は無かった。最初は辛かったけど、僕はだんだんそういうのに慣れていった。独り
      が好きだったし、その時僕は、自分は周囲の人間より1段上の特別な人間だとありがち
      な錯覚を抱いていた。幼年期の終わり、その意識が崩れてゆく経過は悲惨だった。何度
      も自分で自分を殺す思いをした。そして、ボロボロになってどん底で僕が言った言葉は
      オレハマケイヌ、オレハマケイヌ、オレハマケイヌ、オレハマケイヌ、オレハマケイヌ
      俺はその時、両親を殺す夢を見た。

      何人ものマケイヌ部員を前に私は名乗った。
      「西郡彦嗣です」
      聞こえるかどうか分からない程の小さな声でそう言った。逆流した胃液のせいで酷くの
      どに痛みが走った。


10  投稿者:BECK  投稿日:2000/05/20(土)22時17分04秒  ■  ★ 

      歓迎されないのかもしれない。私はそんな気がしてガクガクと足が震え始めた。自暴自
      棄でここまで来た物の、今の私の精神状態は極めて危険な位置に達していた。もし銃を
      持っているのなら錯乱して泣きながら全員撃ち殺してしまうだろう。殺したくて仕方が
      無かった。私は極度の不安に陥ると、すぐその不安の元をとにかく目の前から消し去っ
      てしまおうとしてしまう。大抵その時、血が流れる。
      私は彼らを殺したくなかった。嫌いではなかったから。私の精神に大量のノイズが走り、
      精神汚染率がレベル2に達した事が分かった。このままでは私の精神が崩壊してしまう。
      そして、私はまた逃げた。とにかく人間が一人も居ない所に隠れようと思い無我夢中で
      走った。私はもう何が何だか分からなくなっていた。

      気が付くと、私は深緑色に濁ったプールに浮かぶ女生徒の死体を見つめながらプールサ
      イドに座っていた。その女生徒の死体はびっしりと藻が張った水の上でゆらゆらと揺れ、
      その上を何匹ものミツバチが飛び回っている。何故ハエではないのだろうかという疑問
      は、以前読んだクイーン・ビーというマンガを読んだ事があるのでたいして気にならな
      かった。
      私はプールサイドに落ちている小さな石を拾い、死体に目掛けて何個も投げた。彼女は
      この学校でただ一人居る私の友達だった。こうやって、たまに見に来て小石を投げてや
      るのがこの学校で落ち着ける数少ない時間のひとつだった。春が過ぎ夏が来れば、彼女
      はこのプールから撤去される。私はこの学校でただ一人の友達を失くす事になる。夏な
      ど来なければ良いと思った。

      私は夏が大嫌いだった。夏休みとかいうくだらない行事も大嫌いだった。夏になるとは
      しゃぎ出す馬鹿を全員殺したかった。海に行って薄汚れた肉体をさらけ出して汚い色に
      変えるのが死ぬほど嫌だった。私は気違いみたいに肌の色が白く痩せていた。そんな貧
      弱な体をさらすのがとても嫌だった。暑いのが大嫌いだった。汗をかくのが死ぬほど嫌
      だった。私は毎年すぐクーラー病にかかり毎日ゲロを吐いていた。

      夏にはろくな思い出が無い。
      私が初めて人を犯したのも夏だった。それは、太陽がギラリと焼き付いた7月22日の
      15時、その日は私の誕生日だった。私は近所の神社で虫取りアミと虫かごを抱えて楽
      しそうに遊んでいる、元気そうな小学生の男の子に欲情してしまい無理やり森に連れ込
      んだ。腐葉土に押し倒して服を脱がそうとすると、さすがに男の子らしく抵抗が激しい。
      私は少し苛立って彼を何度も殴り回した。しかし、腹をやったのがまずかったのだろう
      か? 彼はぐったりとしてしまった。

      それでも私はズボンを脱がし、うつ伏せに寝かせて彼のアヌスに自分の性器を突っ込ん
      だ。私はひたすら腰を律動させ、蒸し暑いせいかダラダラと汗が大量に流れて気持ち悪
      かった。彼はただ「うっ」とか「ううっ」とかうめくだけで、ただのマグロだった。
      射精は気持ち良かったが、後味は最悪でとても気が滅入った。もう少しいい声で鳴いて
      くれても良かったと思い、彼の髪の毛をつかんで顔を起こすと瞳孔が開き口の端からは
      よだれが垂れていた。いつ頃から死姦になったのだろうか。私は酷く疑問に思った。

      その日はその事ばかり考えていた。陽も暮れ始め、家路へと急ぐ子供達が何人も私の前
      を駆け抜けていった。その時、私はあまりにも注意が散漫になっていたのだろう。道路
      に出ると、乗用車に跳ねられた。酷く頭を打ち骨も何本か折れた。思えば、あの日から
      私の頭はおかしくなってしまったのかもしれない。よりによって誕生日の日にだ。夏が
      近づくといつもこの事ばかり思い出させられる。
      私は薄汚れた五月空の真下で、そんな事を考えながらプールサイドに座っていつまでも
      彼女を眺めていた。太陽は沈み夕陽がプールの水面に反射してキラキラと赤く輝き、私
      の精神はゆっくりと平静を取り戻していった。そして「あっ人が殺したい」と不意に呟
      けるほど、いつもの私に戻っていた。取り敢えず、明日は屋上に登ってあの女を殺して
      おこうと思った。


11  投稿者:BECK  投稿日:2000/05/23(火)16時52分45秒  ■  ★ 

      幼稚園児の頃、片足の無い人形でよく遊んでいた。私は男のくせによく人形で遊ぶ子供
      だった。私は一人遊びが好きだったし、何より人形は自分の思い通りに動かせるからだ
      ろう。人形の片足は自分でもぎ取った。私は何かをもいだり千切ったりするのが大好き
      だった。よく虫を捕まえては羽、触角、四肢、と指でつまみ一本一本もいでいった。そ
      の虫は胴体だけになり、動けず目も見えず、何もできないままで私は放置してやった。
      次の日に見てるとたいてい死んでいる。
      本当は死んでいるのか生きているか、よく分からなかった。どうせ、動けないのからど
      っちも変わらないのだが。穏やかな気持ちでそれを踏み潰すと「パギ」とか「ブヂ」と
      か音がして、割れた外骨格から緑色やわけの分からない色の体液をはみ出させる。それ
      を見て、たまには墓を作ってやったりもした。ただ、生き物を殺して墓を作るという行
      為をしてみたい、という気分の時だけに。

      私は学校の屋上で寝転び、地面を這う名前も知らない小さな虫を指で圧死させながらそ
      んな事を思い出していた。
      私は明日の早朝、屋上に登って来たあの女を殺すため今日はここで夜を明かす事にして
      いる。そしてただ、煌煌と輝く月に見下ろされながら深い藍色の空を見上げていた。あ
      くびをすると大量に涙が流れ出し、拭かずにそのままにしておいたら乾燥して目から頬、
      顎にかけて白い涙の軌跡ができた。それを触ると薄い膜のような物がポロポロと落ち、
      幼い頃に何らかの理由で泣きじゃくったまま眠り、目が覚めるとこのような跡がたくさ
      ん付いていた、という記憶を甦らせた。

      暇潰しに記憶の糸を手繰り寄せていると、何をしてそうされたかは覚えていないが、そ
      れは父親に折檻を受け、家の外にある古い納屋に一晩中閉じ込められた時に流れた涙の
      記憶である事が分かった。
      私は饐えた臭いのする木造の汚い納屋に引き摺られ「ガチャガチャガチャ、ガダッ」と
      重い引き戸を閉め鍵をかけ、父は泣き叫ぶ私などまったく気に止めないかのように無言
      で去っていった。中はとても気味が悪く真っ暗で、完全に視覚は遮断され、ただでさえ
      気の小さな幼少の私には気が狂いそうな恐怖だった。私は納屋の戸を痛いほど何度も叩
      き、泣きながら何度も大声で謝り続けた。やがて涙で嗚咽が酷くなり、何も声が出せな
      くなった。その時にできた涙の跡と止まらない嗚咽が、今の私の自立心を酷く歪んだ形
      で形成させた。

      私の中で憎悪や恨みや哀しみや辛さがぐちゃぐちゃに混じった感情が沸き起こり、居て
      も立ってもいられず屋上を降りた。誰も居ない校舎の廊下を全速力で走り、731部隊
      の部室の前で止まるとドアを蹴破って中に入った。
      乱暴に引き出しや実験台を漁りメス等の切開用具を手当たり次第にポケットに詰み、大
      きな棚から何本かの注射器と薬品の入った褐色瓶をかき集めて自分のバックに詰め込ん
      だ。さらに置くのもうひとつのドアを蹴り壊して進んだ。狭い部屋の中央にある机の上
      に「ペスト爆弾」と書かれた箱が置いてあった。こいつら完成させていたのか、と思い
      中を開けてひとつ取り出した。とても重く1個持つだけで精一杯だった。これを頂いた
      私はさっさと部屋を出て、水道で腹一杯水を飲んで再び屋上へと戻った。

      屋上に登り盗んできた薬品類を並べてみると、アルコール、塩酸、過酸化水素(オキシ
      ドール)、クロロホルム、水酸化ナトリウム、といったそれなりに使い道のある物だっ
      た。それぞれの薬品の蓋を開けてみると、揮発し気体と化したいくつかの薬品の臭いが
      混じり異常な悪臭がしてすぐに蓋を閉じた。少し吐きそうになった。
      それから、バッグからばらばらと何本ものメスを取り出して数えると6本あった。その
      うちの4本を右手の指に挟んで鉤爪のようにして格好付けたりして戯れた。とりあえず、
      明朝のための殺傷道具を揃え満足した私は、注射器にアルコールを吸わせて左の二の腕
      をベルトで縛って静脈を浮き出させると、針を刺してアルコールを流し込んだ。あっと
      いう間に酔いが回り、頭がぐらぐらしてきた。私はヘラヘラとにたつきながらペスト爆
      弾のつるつるとした表面をさすり、すぐに眠り込んでしまった。


12  投稿者:BECK  投稿日:2000/05/24(水)22時49分43秒  ■  ★ 

      私は夢を見ていた。夢の割には意識がはっきりとしていて、スクリーンの中で演じてい
      る自分とそれを見ている自分という二つの意識を持った奇妙な夢だった。私は薄暗い家
      の階段を登っていた。どこか見覚えのある家だった。2階に上がり目の前にあるドアを
      開けると、そこは自分の部屋だった。私は上着と帽子を脱いでベッドの上に放り投げ部
      屋を出た。階段を降り、洗面所の前で足を止め、手を洗って水を飲んだ。また歩き出し
      居間を越えて廊下を歩き、両親の寝室前で止まると、そのドアノブに手を伸ばした。
      ガチャ。少しドアを開けると、わずかな隙間からアルカリ性の生ぐさい臭いが鼻腔を突
      いた。ドアを半分くらい開けて中を覗くと、壁には大量の血液が飛び散り、床にはどす
      黒い赤の小さな水溜りができていた。

      私は部屋の中へと進み、ベッドを見ると、頭を割られ肉と内臓がはみ出るくらいに腹部
      をえぐられた両親の死体があった。父も母も何か酷く驚いたように、大きく目を見開い
      たまま死んでいた。ベッドの端には、恐らくそれを使って殺したのであろう、血まみれ
      の刃物と金属バットが置かれてあった。
      その二つの凶器は私の物だった。刃物は家族で旅行に行った時、母に買ってもらった物
      で、金属バットはスポーツが苦手だった私に上手くなるようにと小学生の時、父が買い
      与えてくれた物だった。

      私は何故だかとても悲しい気持ちになり、その刃物と金属バットを拾い上げた。すると、
      ぬるりとした生温かい血液の感触がして、それはまるで絵を描いている途中あやまって
      手に塗り付けてしまった絵の具のように、私の手を赤く染めた。暫く刃物と金属バット
      を見てベッドの上に戻し、手に付着した血液を自分の服で拭うと白いシャツが潰れた手
      形のように血で赤く汚れ、まるでホラー映画で見る殺人鬼のようだと思った。

      私が母と父の死体をベッドから引きずって寝室を出たところで、夢は終わった。目が覚
      めて意識が戻るに連れて、鈍い頭痛を感じ始めた。酷く二日酔いしたようだ。私はフラ
      フラと立ち上がり、少し風に当たろうと屋上の柵にもたれかかると、真っ赤な朝焼けが
      視界の真中に入った。これは夕焼けなのではないのだろうか? と錯覚を起こすほどそ
      れは赤かった。それを見ようと頭を斜め上45度に上げると猛烈な頭痛と吐き気がして、
      少し吐いた。
      私は水道で顔を洗って酔いを覚ませると、塩酸をビーカーに移し入れメスを制服の内ポ
      ケットに忍ばせた。用意はできた。後はあの女をここに来るのを待つだけだった。

      すっかりと朝になり、新聞配達の二輪車の音が近付いて来て止まり、また遠ざかってい
      った。私はベンチに座ってメスをいじくったり、いつの間にかできていた腕の小さなす
      り傷にオキシドールを付けて消毒したりしていた。すると、屋上入口のドアから階段を
      上がってくる足音が聞こえ始め、ドアが開きあの女が入ってきた。
      彼女は私の存在などまるで気に止めず、いつもの様に屋上の端の柵へと向かった。私は
      まったく穏やかな気持ちで近づいて行き、それでも私には何の注意も払わず、彼女の名
      前は忘れたが、名前を呼んでこう言った。

      「お前には幼児の破瓜以上の苦痛を与えてやる」「ガスッ」
      いきなり彼女はスパナで私の頭を殴りつけてきた。激痛が走り額から血がダラダラと流
      れ落ちてきた。私は何が何だかまったく理解できなかった。何故、何もしていない俺が
      こんな目に遭わなければならないんだ。ふざけるな、こんな理不尽な事が僕以外に許さ
      れて良いはずが無い。
      「ああっあああっあっあっあっ」
      私は気が動転して、ビーカーに入った塩酸を彼女の顔にかけた。「ジュッ」という音が
      聞こえ、見る見る内に彼女のきれいな顔が醜く焼け爛れていった。私は頭から流れる血
      が目に入り、それをほとんど見る事ができなかった。そして、頭を殴られたショックで
      腰が抜けてその場にへたり込んでしまった。
      「痛い痛い痛い、畜生よくもやったな。ざまあみやがれ、なんてツラだ。ああ、痛てぇ」
      私はもう死にそうな感じがしてそんな事を言い「アハアハハ」と笑って仰向けに倒れた。

      私はこのまま死ぬのではないだろうかと思っていると、いつの間にか屋上の柵を越えて
      外側にいる女が目に入った。そして、彼女はこっちを振り返る事も無く、ふわっと風に
      乗るようにしてそこから落下していった。何秒かが過ぎて「グシャ」という音が聞こえ
      た。私はそれを聞いて、それが何故かとても愉快な事に思えて、気違いのように笑った。



     @ルーザー その2 その3 西郡彦嗣 BECK vs 猫ニャー
     死シテ屍拾ウ者ナシ 偽不思議の国 七三一部隊 プライベート


Remix からの転載をまとめたものです。 特別リンク:Exprimenting out!


コンテンツ:びでメール エロゲ 森の妖精 もゃιぃ 湖畔論 スワティ 替え歌 (゚Д゚)ハァ?

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