だせえ君日記(その7)


だせえ  投稿者:だせえ君  投稿日:06月09日(日)09時00分51秒  ■  ★ 

      6月9日(晴れ)

      A社の女性社員3人の中で一人だけ雰囲気の違う女性がいた。
      K中N子と書かれた名刺を良く見ると営業部所属の他の2人とは違い
      ××技術部の所属になっていた。コテコテの関西女という感じの営業部の2人とは違って、
      大人しくて清楚な雰囲気があり最初から何となく気になっていたのだった。

      遠慮がちに少し離れて歩いていたN子に思い切って話しかけてみた
      『申し訳ないですねえ、仕事中なのにこんなところで付き合って頂いたりして』
      「いえ、仕事中に遊べるんですからラッキーですよお」『なんかK中さんって
      あまり関西人っぽくないですよね』「高校まで千葉に住んでたんです」
      『へえ、千葉のどの辺?』「N市です」『なんだあ、すぐ近くじゃん』

      それから2人でN市周辺の話で盛り上がった。他の女性社員が「こらこら、そこ!
      なんで2人だけで盛り上がってるの」とか言ってきたりしたが構わず2人で話し込んでいた。
      運良く他のスーツ姿の集団とすれ違った事で何となく気分的にも楽になっていた。
      旅行会社の研修だったようなのだが、こっちの集団だってそう見えなくもないのだ。
      「S川さんってどうして関西のことそんなに詳しいんですか?」『むかし大阪の子と
      遠距離恋愛してたんだ』「そうなんですか、どれくらいの期間?どれくらいの頻度で
      会ってました?」聞けばN子も現在福岡在住の男と遠距離恋愛中なのだそうだ。
      お互いの話をしたり相談し合ったりするうちに、今日会ったばかりとは思えないほど
      仲良くなってしまった。

      E.T.アドベンチャーに乗った後はバック・トゥ・ザ・フーチャー・ザ・ライドに乗った。
      要するにデロリアンの形をした箱に乗ってスクリーンの映像に合わせてGがかかってくる
      乗り物だ、正直気持ち悪くなる。となりに座っていたN子は俺の手を握って
      「いや〜気持ち悪くなりそう!」と叫んでいる『俺も〜』と言って手を握り返した。

      アトラクションの外へ出たところで案内役の営業部の女性が「皆さん大丈夫ですか?
      次はバックドラフト行って、その後食事で〜す。それともそこの2人は、この後
      別行動にしますかあ?」みんながこっちを向いて笑った。
      出来ることならそうして欲しいと少しだけマジで思った。N子が小さい声で
      「スヌーピースタジオ行きたかったのに予定に入ってないんですよ」とちょっと
      不満そうだったので『じゃあ本当に別行動する?』と言うと「うん」
      とあっさり答えた。

      バックドラフトの待ち時間が予定よりも少なく済んだので時間が余ってしまった。
      俺が『じゃあ1時間後にゲートの地球儀のところで集合って事にしませんか?』と
      言うと皆が賛成した。ここでもN川に「おまえら、ちゃんと戻って来いよな」と冷やかされた。
      2人でスヌーピータウンに向かいながらN子の手を握りたい衝動に駆られた。
      別に変な気持ちからではなく、その時はそうするのが一番自然のように思ったのだ。

      つづく


だせえ  投稿者:だせえ君  投稿日:06月11日(火)01時41分40秒  ■  ★ 

      6月10日(晴れ)

      スヌーピータウンには水が流れるチューブの中をゴムボートに乗って滑り
      降りていくアトラクションがある。N子が乗りたがったので俺は付き合うことにした。
      ところが下まで降りた時には2人ともびしょ濡れになってしまった。N子が「いや〜
      こんなに濡れちゃった〜」と言いながら甘えた声を出して近寄ってくる。
      N子の持っていたタオルで背中を拭いてやると、N子は「2人して濡れて行ったら、
      また何か言われるよ」と笑いながら俺の背中を拭いてくれた。スーツ姿でいちゃついている
      俺たちを周りの人たちは不思議そうな顔で見ていた。

      途中、食事休憩を兼ねて2時間くらい休んだものの、夜になると全員ヘトヘトになっていた。
      遊園地というところは、どうしてこんなに疲れるのだろうか?お世話になったA社の人たちに
      挨拶をして空港へ向かうハイヤーに乗る時、A社の営業の女性社員が「S川さんN子を持って
      帰って下さーい」と冗談を言ったが、俺は何と言い返せばいいか分からず、ただ笑うしか
      なかった。クルマが発進しN子が俺の方に手を振っている、俺はちょっとだけ胸が締め付けら
      れるような気がした。

      数日後A社から封筒が届き、中には当日撮った写真が入っていた。
      A社の女性社員からの簡単な手紙が添えられていたが、俺宛にN子からの手紙が別の封筒に
      入っていたのだ。K井が冷やかしながら俺のところへその封筒を持ってきた。
      「先日はお疲れ様でした、S川さんと色々お話が出来て本当に楽しかったです。
      悩みも聞いてもらったのでかなりスッキリしたんですよ(以下略)」最後に携帯のメール
      アドレスが添えられていて「良かったらメール下さい」と書いてあった。

      俺は早速メールを打った『手紙ありがとう、嬉しかったです。でもN子さんには彼氏がいるのに、
      俺とメール交換とかしても大丈夫なの?』別に深く考えずにこんなメールを送ったのだが、
      返事は来なかった。後日、別の女の子にこの事を話したら「向こうは、もっと軽い気持ちで
      メール交換しようと思ってたのにそんなメールを送ってこられたから、引いちゃったんでしょ」
      と言われた(;´Д`)

      数日後、私用で大阪に行っていた俺にK井からメールが入った「大阪にいるところへ、
      こんなメールをして申し訳ないが、来月にもう一度A社へ出張して欲しい」
      今度はファームウェアを転送するところで不具合が起きたそうで、作業が一部やり直しに
      なったのだそうだ。またA社へ行き、N子と会うことになるのだろうか・・・鬱だ。


だせえ  投稿者:だせえ君  投稿日:06月13日(木)11時59分37秒  ■  ★ 

      6月12日(くもり)

      家で寝ていたらピンポーンとチャイムが鳴った。
      何度かしつこく鳴らすので郵便か宅配かなと思ってズボンを履いて玄関へ行き
      覗き窓から外を除くと既に誰も立っていなかった。不在通知票がドアに挟んで
      あるかもしれないと思いドアを開けてみたが何も無い。

      ドアを閉めて部屋に戻ろうとすると、またピンポーンと鳴ったので覗き窓から
      外を見ると、そこには制服を着た警察官の姿が・・・思わず俺は息を止めて
      固まってしまった。警察官は俺がドアを開けたのを見ていたのだろう、しつこ
      く何度もチャイムを鳴らす。

      脳裏に数年前の悪夢が蘇って来た、5人の刑事にガサ入れをされた忌まわしい
      記憶・・やっと今年の11月をもって本籍地の犯罪者名簿から名前が消えると
      いうところなのに。しかし最近警察の世話になるような事をした記憶は無い。
      ただ友人の中には、いつ警察に捕まってもおかしくない奴が数名いる他、
      不法滞在の外国人ともたまに遊んだりしているので、そういう関係で来たとも
      考えられるのだ。

      警察官は「S川さーん」と言いながらドアを叩きはじめた。そして覗き窓の方を
      逆に向こう側から覗き込んできた。俺は思わず覗き窓から顔を背けてドアの端に
      体を避けた。考えてみれば向こうから中の様子を見ることは出来ないのだが、
      思わず体が反応してしまったのだ。

      しばらくして、恐る恐る覗き窓から外を見ると警察官の姿は見えなくなっていた。
      しかし、どこかに隠れているのかもしれない。部屋に戻って冷たく冷えた缶コーヒー
      を飲みながら、落ち着いて考えようとした。最近何かドジを踏んだだろうか?しかし
      ネット関連とか、知能犯罪なら刑事課の人間が来るだろうし、不法滞在とかなら入官
      の奴らも一緒だから制服警官が単独という事はないだろう。そうするともっと軽微な
      犯罪絡みとか近所からの苦情とか、そんな感じだろうか?もしくは単なる地域巡回か?

      そろそろ外へ出なければいけなかった、友人との約束の時間が迫っている。俺はどう
      やって警察官に見つからないようにクルマのところまで行くか考えていた。

      つづく


だせえ  投稿者:だせえ君  投稿日:06月23日(日)17時09分31秒  ■  ★ 

      6月23日(くもり)

      前回の続き

      約束の時間は迫っていたし、何となく巧く切り抜けられそうな気がしたので
      意を決してドアを開け、外へ出た。すると3件先の家の玄関に先程の警察官が
      立っていて俺と目が合った。構わず駐車場へ歩いていくと後ろから警察官特有の
      足音が迫って来て、何故か背中の筋肉が緊張してくる。

      「ちょっと、あんた」40歳くらいのチビで頭の悪そうな警察官だ。
      俺は無視して歩き続ける。「ちょっと止まって」『は?』返事はしたが歩くのは
      止めないでいると俺の肩を掴もうとする
      さすがに、そこまでされると立ち止まらないわけにはいかない。

      『あのさあ、警察官って地方公務員だろ?公務員が一般市民に向かって「ちょっと、
      あんた」とは何事だよ?』警察官は(やれやれ、変なやつと関わっちゃったよ)という
      表情をしながら「さっき呼び鈴鳴らしたでしょう?何で出てこなかったんですか?」と
      交通違反でも捕まえたような偉そうな口調で言い放った。『トイレに入ってたから
      出れなかったんだよ、それとも呼び鈴を鳴らされたら速やかにドアを開けなさい、って
      いう法律か条例でもあるわけ?』警察官が何も言わずに黙っているので、そのまま
      立ち去ろうかと思ったんだけど警察官が訪ねてきた理由が気になる。

      『それで何の用なの?』「おたくは何人家族ですか?」『・・・こっちは何の用か
      尋ねてるのにいきなり何人家族か、って聞かれてもなあ』「お願いだから協力して
      下さいよ時間はとらせないから、この台帳埋めないと上から怒られるんだよ」
      『何に使う台帳なの?』「色々な警察活動に使います」『そんな説明じゃ納得できないよ、
      防衛庁だって変なリスト勝手に作って問題になってるじゃん、警察が個人情報集めて
      何に使うんだよ』「変な事には使わないですよ簡単な質問だけだから、おたくは警察に
      隠すような事は何もないんだよね?だったら協力してよ」

      最後の言葉にカチンと来たので『何か引っかかる言い方するなあ、あんた名札付けて
      ねえじゃん?規則違反だろ?名札付けないで個人情報収集するってどういう事だよ?』
      と言うと警察官は明らかに焦った表情で「名札は、この下に付けて・・」と言いかけたが
      『とにかくさ、ウチの個人情報が警察活動に不可欠だって事ならフダ取ってガサ入れに
      来ればいいじゃん』と言って、そのまま歩き出した。

      少し歩いて振り返ると、警察官は地域巡回を諦めたらしく、バイクのエンジンを
      思い切りふかして走り去って行くところだった。同じ地方公務員でも消防士はみんなから
      感謝されたり尊敬されたりもするけど、警察官は忌み嫌われる事の方が多い。
      バイクの残した白い煙を見ながら警察官って大変な仕事だなあと、ちょっと同情してしまう。

      気が付くと掌と背中は汗でびっしょり濡れていて心臓の鼓動も大きくなっていた。
      大きく溜息をつきながら警察に悪態つく人って、皆それなりに脛に傷あるやつらなんじゃ
      ないだろうかと思ったのだった。


だせえ  投稿者:だせえ君  投稿日:07月21日(日)00時48分31秒  ■  ★ 

      7月20日(晴れ)

      尼板にも書いたが、先日男4人で仙台へ行ってきた。東北新幹線に乗るのは初めて
      だったのだが、ホームに入ってきたのは白と緑に塗られた今にも朽ち果てそうな0系だった。
      こんな古い車両を時速200km以上で走らせて大丈夫なのか?と思ってしまった。

      帰りはE4系の2階建て新幹線MAXである。仙台から福島まで8両編成で走り福島で
      山形新幹線つばさ号(400系)と連結し福島−東京間は15両編成で走るのだ。
      俺たちの乗っている車両は最後尾の8号車である、俺はラッキーだと思った。俺のような
      首都圏在住者にとって新幹線の連結風景など滅多に見れるモノではないのだ。出来れば
      ビデオで撮影したかったが、それでは周りから鉄オタと間違えられてしまうので止めておく
      事にした。

      福島駅に着いた時、車内でくつろいでいる友人達に「ちょっと新幹線同士の連結ってやつを
      見てくるわ」と行って席を立った。すると全員が「俺も」と言って付いてきたのだった。
      まあ男なら誰だって興味を持つものかも知れない。

      ホームの車両最後尾付近では、やまびこ号の車掌がトランシーバーで話をしている。
      間もなくつばさ号がゆっくりとホームに入ってきた。やまびこの手前200mくらいまで
      来たところで一旦停止する。やまびこ号を見ると最後部のカバーが開き、連結器が
      むき出しになっている。つばさ号もカバーが開き連結器が顔をのぞかせる。
      スタイリッシュな車両がカバーを開き連結器をむき出しにしている様子は、まるでばりっと
      スーツを着た男がチャックを出してチンコを出しているかのような違和感を感じる。

      やまびこ号の車掌がトランシーバーで何か喋ると、つばさ号が「ファン」と警笛を鳴らし
      ゆっくりと動き始めた。時速2〜3kmくらいでゆっくりと近づき連結器同士が「ガシャン」と
      いう音と共にしっかりと結びついた。この時の連結器はまるで生き物のようにお互いを
      引き寄せ合うような動きを見せる。文字ではうまく言い表せないが、まず横方向の動きで
      繋がったあと、さらに取っ手のようなモノがせり出してきて上下をがっちりと固定するのだ。
      在来線の連結器とは少し構造が違う。

      そこで見学をしていたのは俺たちだけではなく年配の夫婦やサラリーマンのグループ、
      OL風の女など20人近くはいただろうか?皆一様に感動していた様子であった。
      脇の線路を後続の福島を通過する車両が猛スピードで走って行く。240kmくらいだろうか?
      間近で見るそのスピード感は初めて経験するもので先程の連結器といい、このスピードといい
      「新幹線は偉いなあ」と真面目に思ってしまった。

      飛行機と違って純粋な国産技術で日々進歩する新幹線をもっと応援しようと思った今回の
      仙台旅行であった。まあこれで俺が鉄オタでない事が証明されたと思う、鉄オタだったら
      こんな事で感動はしないし、8両編成とは呼ばずに8連と言ったり、連結器とは書かずに
      分割併合装置と記述する筈だからだ。


だせえ  投稿者:だせえ君  投稿日:07月25日(木)09時33分57秒  ■  ★ 

      7月25日(晴れ)

      先日、会社の連中と栃木県のゴルフ場へ行ってきた。メンバーは後輩のW光と
      同期のS、同じ課の女の子Y里と俺の4人である。なかなか良い感じのゴルフ場だったが
      安いだけあってギチギチに詰め込んでいるようで、すぐに前の組に追いついてしまう。
      しかし俺たちも平均ハンデ36の超初心者グループである。
      いつ他の人たちに迷惑をかける事になるか分からないので大人しく待つことにする。

      5番ホールでは何と2組のカートかティーグランド脇に止まっていた、カートの
      トラブルらしい。まあ俺たちにとっては前が詰まってくれた方が後ろの組のプレッシャーを
      感じないで済むだけに有り難い。
      俺たちがティーショットをはじめる頃に後ろの組が追いついてきた。アニオタがそのまま
      40歳になりましたって感じの風采の上がらない男達のグループだった。

      夏のゴルフ場はラフの草が伸びていて、ラフにボールを入れると脱出に苦労する。
      5番ホールのティーショットを左のラフに入れてしまった俺は悩んだ。さっきは同じ様な
      状況でロングアイアンを使って大失敗している。
      残り230ヤードを3番アイアンで打つか、買ったばかりで、ちゃんと打てる自信のない
      (まあ他のクラブも自信ないけど)5番ウッドで狙うか・・後輩のW光がニヤニヤ笑いながら
      俺に5Wを手渡した「早速これの出番じゃないですか」『おう見てろ2オンさせてやる』
      俺の打った玉はスライスしてグリーン遥か手前のバンカーに吸い込まれていった。
      俺は練習場で打ち込んでモノにするまで絶対この5Wは使わないことを心に誓ったのだった。

      前半最後の9番ホール、Y里が暑さのためか大きく崩れてしまい打つ玉が全てトップして
      グリーンに辿り着くまで5回くらい打ってしまった。やっとパッティングというところで、
      後ろのアニオタ親父組が玉を打ち込んできた。玉はカートの近くにいた俺の足下でバウンドして
      Y里に当たった。俺たちが怒鳴る前にグリーン脇にまだ残っていた。
      前の組の人たちが声をあげた「おい、まだ打つな!女の子に当たったぞ!!」

      球を打ち込んできた後ろの組の奴らは謝るでもなく、ただこちらを見ている。
      俺はわざわざ休暇を取って遠くまで出かけてきたのだし、Y里も怪我をしていないようなので
      楽しくゴルフを続ける為にも穏便に済ませたかった。
      しかし前の組の人たちがY里のノースリーブ短パン姿に目が眩んだのか「俺たちが証人に
      なってあげるから、キャディマスターへクレームを入れよう。罰金5万円くらい取れるよ」とか
      言っていてY里もその気になりかけている。
      気の短いW光が「あいつら口がきけないんすかね?」と苛立った口調で吐き捨てると
      後ろのアニオタ親父の方へ走って行った。

      やれやれ、と思いながら俺はカートに乗り込んで後ろの組がいる方へバックで走り出した。
      バックで走っていくカートを周りの人たちが驚いた顔で見ていた。俺は昔付き合っていた女に
      「あなたってクルマの運転も、あっちの方もバックだけは上手いのね」と言われたことを
      思い出していた。

      つづく


だせえ  投稿者:だせえ君  投稿日:07月29日(月)08時20分39秒  ■  ★ 

      7月28日(晴れ)

      俺の乗ったカートが着くと、前の組の連中が強張った表情でこちらを見た。
      W光は意外と落ち着いた態度で話をしてるようだ。ボールを打ち込んだ男がすぐに
      俺に謝って来た「私が打ちました、申し訳ありません」『俺に謝ったって仕方ないよ、
      当てた相手に謝ってよ。それに俺たちがこっちが来る前に、先にあんたの方が来て謝る
      べきじゃなかったの?』すると声の甲高い色白の男が「とりあえず後ろも詰まってるしさあ、
      あとでゆっくり話そうよ」と偉そうに口を挟んできたのでキレてしまった。

      『あ?おまえらみたいなマナー違反する奴が、こうやって一番プレー進行を遅らせてる
      んじゃねえか。こっちは怪我するところだったんだぞ?穏便に済ませてやろうと思ったけど、
      おまえらがそう出るならこっちも正式な手続きとるからな、後でバックレんじゃねえぞ。
      おいあんたロッカーの番号札見せろ、ここに名前書け』相手はペコペコ頭を下げながら
      ロッカーキーを見せて俺のスコアカードの裏に名前と電話番号を書いた。俺を怒らせた
      色白の男は「変な意味で言ったんじゃないんだけどなあ」とか言ってるので、またキレそうに
      なったら、その男は同じ組の一番年配と思われる男に「おまえは黙ってろ」と怒鳴られていた。

      カートに乗り込んでグリーンに戻るとY里とSは既にパットを終えていて、俺とW光も
      無言で後に続きクラブハウスへ食事をとりに戻る。証人になってくれると言っていた前の組の
      人たちは名刺を置いていったそうで、見ると大手コンピューターメーカーの群馬県内の
      工場勤務の管理職だった。俺としては楽しみにしていたゴルフに、こんな形でケチがついて
      嫌な気分である。Y里は既に気分を切り替えているようで「この天ぷら美味しいよ〜」とか
      言ってはしゃいでいる。

      しばらくすると俺たちのテーブルにゴルフ場副支配人の名刺を持った男と、ボールを
      打ち込んできた当事者が謝りに来た、副支配人は医務室へ行くようにY里に勧めたがY里は
      断っていた。不思議なものできちんと謝られれば許してあげたい気分になるものだ。
      食事が終わった頃、「○○様からでございます」と言ってスイカが運ばれて来た、お詫びの
      印という事だろう。W光が「俺は赤肉メロンの方が良かったのによお」と言っていたが
      メニューを見ると赤肉メロンよりスイカの方が高くなっていた。

      俺たちは冷たく冷えたスイカを食べ終わると気分を切り替えてカートプールへ向かった。
      ここまでのスコアは(初心者としては)決して悪くない。後半の頑張り次第ではかなり
      良いスコアが残せるだろう。10番ホールのティーショットは俺がオナーだ、ボールは
      「カキーン」いうチタンドライバー独特の音と共に低めの弾道で真っ直ぐ飛んでいった。
      今日一番のショットかも知れないなあと思いながら気分はすっかり良くなっていた。
      ところが、その日のゴルフにはまだ次のトラブルが待っていたのだ。

      つづく


だせえ  投稿者:だせえ君  投稿日:07月30日(火)03時04分33秒  ■  ★ 

      7月29日(晴れ)

      午後になってさらに暑さは増し集中力をなくした俺たちはOBを連発した。
      山岳コースだけあってアップダウンがきつかったりブラインドホールになっていたりして
      初心者の俺たちを苦しませた。
      何本ものペットボトルを空にしながら、やっと17番ホールまでやってきた。
      相変わらず前が詰まっていて売店にミネラルウォーターを買いに行ったりして時間を潰す。
      Y里が入念に日焼け止めを塗っている、見るとノースリーブのシャツの脇から胸元が
      バッチリ見えているのだが暑さのためか全く嬉しさが込み上げてこない。

      ティーショットの順番が回ってきた、打ち下ろしのホールである。真っ直ぐ飛んだと
      思ったらフックして、また左のラフに入れてしまった。まあスライスしてOBになるよりは
      遙かにマシだ。うまくいけば2オン2パットのパーで上がれるかも知れない位置に付けたようだ。
      SとW光がOBしてしまい後ろも詰まっていたので先にある特設ティーから4打目として
      打つことにして全員カートに乗り込む。

      結局俺だけ3パットしてしまい、溜息をつきながらグリーンエッジに置いたPWを取りに
      行こうとした時、何かが風を切る音がしてポトンとボールが落ちてきた。ボールは俺のPWに
      当たって跳ね返りグリーン脇のラフで止まった。前の組がまた打ち込んできたのだ。
      「ごめんなさーい!」聞き覚えのある声だ、さっきの甲高い声の色白の男である。
      W光が何か怒鳴った。Sも一緒になって罵倒している。
      Y里が打ち込まれたボールを蹴飛ばそうとしていた『ちょっと待て』俺はカートへ走って、
      先程2度と使わないと心に誓ったはずの5Wを取り出した。こうなったら色白男の方へ向かって
      ボールを打ち返してやるしかない。

      W光が驚いた顔でこっちを見ていた。ラフに入った玉を見ると、良い感じで浮き上がっている。
      一番苦手な5Wだから飛ばす自信は無かったと思うんだけど頭に血が上っていた俺は足早に
      ボールに向かって行きアドレスもろくにとらないで何も考えずにボールに向かって振り下ろした。
      「パシュ!」と音がしてボールが信じられないようなスピードで上がっていった。まるで
      2段ロケットのように途中でさらに加速しているように見える。

      ボールは色白男に向かって真っ直ぐに飛んで行く。『あ、ヤバイ!』と思ったが、
      こちらからは打ち上げになるので、ボールは色白男の手前で落ちた。色白男は腰が抜けたような
      格好でフラフラとボールから逃げている。
      「ナイスショット!」そういってW光が大笑いしている、普段は温厚なSまでが拍手していた。
      トドメにY里が「ばーーーか!」と叫ぶ。

      ゴルフは紳士のスポーツとか行ってるけど絶対に嘘だと思った。後で冷静になって考えると
      打ち下ろしのホールだったので距離感を誤って打ち込んでしまったんだろうけど、2度も
      打ち込んできた奴らも、それに過剰に反応した俺たちも、とても紳士的とは言えないだろう。
      しかしゴルフ場で周りを見渡せばガキがそのまま年をとったような似たような腐れオヤジばかり
      である。つーか考えて見れば会社に帰っても同じ様な状況なんだけどな。
      要するにゴルフ場は社会の縮図って感じだ。

      俺が打ち込まれたボールを打ち返した話はW光とY里によって会社中に知れ渡り
      「やっぱりS川は・・・」という評判が立ってしまった。
      一緒になって喜んでいたおまえらだって同じ穴の狢じゃないかと俺は言いたい。

      ゴルフ編おわり


だせえ  投稿者:だせえ君  投稿日:08月02日(金)01時02分23秒  ■  ★ 

      ゴルフ練習場へ行った帰りのクルマの中で携帯電話が鳴った。
      メモリーに入っていない番号からかかって来ていたので出るかどうか迷っていると切れた。
      信号待ちの時に少し考えてからかけ直してみる。すぐに女が出た。「はい」『もしもし?
      今電話しました?』「はい」『誰?』「誰だか分からない?」「分からないよ」
      『だあ〜れだ?』「え?誰よ?」『・・・今日、懐かしい手帳を受け取りました』
      「え・・・」俺は頭の中が真っ白になった。

      実は、今年のゴールデンウイーク明けに中学校の同窓会があって迷った末に参加した。
      参加した理由は中学3年から高校1年にかけて付き合っていたM香が来ると聞いたからだった。
      M香は典型的なお嬢様タイプの女の子で学級副委員長とバスケットボール部のキャプテンを
      任されるようなしっかりとした一面もあり成績も良かったし、付き合っていた俺が言うのは
      自慢っぽくてアレだが、学年で一番可愛い子だったのだ。そんなM香が、どうして俺なんかと
      付き合っていたのか今考えても不思議である。
      電話の相手はそのM香からだったのだ。

      中学の卒業式の時、M香が俺の制服の第2ボタンが欲しいと言うので渡すとM香は
      自分の生徒手帳を代わりに差し出した。「Y雄と会った日と電話で話した日には印がついてるんだよ」
      確かそんな事を言っていたと記憶している。その手帳は俺の実家のタンスにずっと保管して
      あったのだが、いつまでも俺が持っていても仕方ないので同窓会でM香に返そうと思い、
      胸ポケットにその生徒手帳を忍ばせて同窓会会場へ向かった。M香が言った懐かしい手帳とは、
      それの事である。

      M香は短大卒業後、外資系損害保険会社に就職し25歳で結婚したのだが、男運が全く
      無かったようで、その後2回の離婚の他に色々な事があったそうで親からは勘当同然にされ、
      別れた旦那からはストーカー行為を受けるなど波瀾万丈という感じの人生を歩んでいるという事は
      人伝に聞いていた。そういう理由から女友達がM香の家族に連絡先を聞こうとしても答えて
      もらえず音信不通になっていて心配していたのだ。
      そのM香に久々に会うのを楽しみに同窓会会場へ向かったのだが、M香は結局来なかったのだ。

      M香が来ないと聞いて、俺はM香と一番仲が良かったN子に手帳を見せた。
      『これを今日渡そうと思ったのに』N子は、それを見てとても感激している。そして小さな声で
      「実はM香とは何ヶ月に一回は会っているの、これ私が渡そうか?」
      本当は直接会って渡したかったけど無理そうなのでN子に頼むことにした。
      「ねえ、この紙にY雄の連絡先書いてよ」『いいよ、どうせ連絡なんてくれないだろうし』
      「いいから書きなさいよ」結局、携帯の番号とメールアドレスを書いて渡したのだが
      数ヶ月経っても連絡が無いのでほとんど諦めていたところへかかって来た電話だったのだ。

      車を運転中の電話だったし、まったく予想しない相手からの電話だったので、うまく会話を
      繋ぐことが出来ず、近いうちに会うことを約束するのが精一杯だった。電話を切ってから
      家に着くまでの道を俺は夢遊病者のような感じで運転していた。

      どうして15〜6歳の頃に付き合っていた女のことで、こんな気持ちになるのか不思議だったけど、
      やはりM香は俺にとって特別な存在なのかもしれない。その電話の二日後、M香の携帯に電話して
      『急で悪いけど明日の夜食事でもどう?』と誘ってみた「明日?いいよ。ただ犬に餌をあげないと
      いけないから、仕事終わってから一回家に帰りたいんだけど」『わかった、じゃあM香の家まで
      迎えに行くよ』

      そんなわけで明日会って来ます。

      つづく


だせえ  投稿者:だせえ君  投稿日:08月03日(土)00時09分35秒  ■  ★ 

      8月2日(晴れのち雷雨)

      今日、銀行で金をおろし車をピカピカに洗車してM香の家へ向かった。女友達にさえ
      連絡先を教えないM香が俺には電話番号も住所も教えてくれたのが不思議な気がした。
      昔付き合っていたと言っても中学、高校の時の話だし最後に会って10年以上経っているのだ。

      同窓会に行く時、同級生の女はみんなババアになってるんだろうなあ、と思っていた。
      確かにババアになった女が大半だったけど中には、まだまだ若さを保っている女が結構いたのに
      驚いた。同窓会でN子から「M香は今でも、すごく綺麗だよ、本当に若く見えるし」と
      聞かされていたので、ちょっと期待していた反面、10数年ぶりに会うのだから、やはり
      老け込んでいるんだろうなあという気持ちもあった。

      カーナビの誘導でM香の住むマンションの下に到着したのは約束した時間の15分前だった。
      かなり家賃の高そうなマンションだ。携帯から電話をかける、緊張で喉が渇いているのを
      感じて咳払いをした。「もしもし」M香の柔らかい声が聞こえてきた。こんな事を言うのは
      恥ずかしいんだけど気分はすっかり中学生の頃に戻っていた。「今からすぐに降りるね」
      そういってM香は電話を切った。当時M香の声を電話で聞く度に本当な幸せな気分になれた
      んだけど、その時と全く変わらない柔らかい声だ。

      車から降りて外で待った。すぐに降りると言った割には数分経ってもM香は表れない。
      俺はM香に交際を申し込んだ時の事を思い出していた。同級生の男から「M香ってさぁ
      Y雄に気があるんじゃねえか?」と言われ、それまで優等生すぎて対象外だったM香を
      急に意識するようになったのは中3の秋頃だった。
      思い切って電話をかけて「話があるんだけど、明日○○公園に来てくれないか?」と言うと
      M香はあっさりとOKした。公園で待っていた時M香は約束の時間より3分ほど遅れて
      やって来たんだけど、その時の「もしかしたら来てくれないんじゃないか」と思いながら
      待った3分は、30分以上に感じたのを覚えている。その時の数分間もまさにそんな感じだった。

      遠くに女の姿が見え、こちらにゆっくりと近づいてくる。顔が判別できる距離に来た時、
      俺はたまらず下を向いてしまった。あの時もそうだった、下を向いて枯れ葉の絨毯を足で
      かき回しながら、なかなか用件を切り出す事が出来ないでいたのだった。
      俺は下を向きながら、どういう表情で目を合わせたらいいのか考えてしまった。

      顔を上げるとM香は少し緊張気味の表情ですぐ近くに立っている。思わずハッとしたと言うか
      ビックリした。N子の言ったとおり本当にいい女だと思った。当時よりすっと良い感じだった。
      この年になって、こんなに綺麗でいる女はそうそういないだろう。
      『M香、綺麗だな。ビックリしたよ』「Y雄・・太ったね」『・・(;´Д`)』
      M香はとても目が綺麗な女の子だったんだけど、それも少しも変わっていない。俺のように
      経験を積んで枯れてくると、女の前で不必要に格好付けることはなくなるんだけど、そんな
      余裕は全くなくなっていた。
      やはりM香は俺にとって特別な存在なのか、それとも感傷的な気分がそうさせているのか・・・
      頭の中が真っ白になってしまった俺は「何か食べる?それとも飲みに行く?」と切り出すのが
      精一杯だった。

      つづく


だせえ  投稿者:だせえ君  投稿日:08月05日(月)02時27分41秒  ■  ★ 

      8月4日(晴れ、夜になって雷雨)

      M香は「そこでどう?けっこう美味しいよ」と言ってマンションの1Fに入っている
      イタリア料理店を指さした。中に入ってウエイトレスに案内され席に着くまでの動作でさえ、
      緊張してぎこちなくなっているのが自分でも分かる。本当はビールが良かったんだけど
      M香がカクテルを頼んだので、俺もつられて飲んだこともないカクテルを注文してしまった。

      『M香、同窓会に来れば良かったのに』「色々とゴタゴタしてて行けなくなっちゃって・・」
      考えてみればM香が同窓会に来てたら、こんな会い方は出来なかったに違いないし、
      俺の気持ちもこんなに盛り上がっていなかったかも知れない。まるで卒業式の日にM香が渡した
      生徒手帳が2人の再開を約束していたようなドラマチックな展開になっているのだ。

      その後、お互いに今までにあった事を話した。仕事のこと、異性関係のこと、病気や
      怪我のこと・・驚いたのはM香の人生が短大卒業後本当に波瀾万丈だった事だった。
      当時は幸せな生涯が約束されているように見えた、お嬢様育ちのM香がどうしてこんな
      人生を歩む事になったのだろうか。
      「私ね、Y雄と付き合ってた頃が一番楽しかった。あの後本当にろくな人生じゃなかったもん」
      俺もそうかも知れないと思った。M香と付き合ってた頃は毎日を全てを手に入れたような
      気分で過ごしていた。その分M香から別れを切り出された時のショックは言葉では
      言い尽くせない程だった。
      それと同時にM香が俺に電話番号や住所を教えてくれた理由も分かった気がした。
      一番楽しかった頃の記憶を共有しているのが俺だからなんじゃないかと思ったのだ。

      『あれ以来、しばらく女と付き合えなくてさあ・・高3の時、無理矢理女を紹介されるまで、
      彼女を作らなかったんだよ』「・・・あれは私が悪かったんだよね、ごめんね」
      M香は本当にすまなそうに下を向いた。『違うよ、原因は俺が作ったんだからM香のせい
      なんかじゃないよ』そう言いながら何かが心の中で解けていくのを感じだ。
      M香と話をしてると、過去の記憶の中で絡まっていたものがどんどん解けていくのを感じる。

      2時間ほど話をしたところで沈黙が訪れた。『どうする?』と言うとM香はすまなそうに
      「犬がいるから帰らなきゃ・・・」と言った。もっと一緒にいたかったけど『そう、じゃあ
      出ようか』と言うしかなかった。マンションの玄関まで送ることにする。
      「Y雄、ゴルフ始めたんでしょ?今度練習場へ連れてってよ」『いいよ』「土日の昼間が
      いいんだけど」『じゃあ来週か再来週どう?』「どっちでも大丈夫だよ、電話ちょうだいね」
      M香を見送った後、俺はどういう訳か車を思い切り飛ばして帰った。雷が鳴り始めて雨が
      降ってきた。

      家についてM香にメールを送ると、すぐに返事が返ってきた。ベッドに横たわりメールを
      読みながらまた、同じ事の繰り返しになるんじゃないだろうか?という不安がよぎった。
      これっきりにしておいた方がいいんじゃないだろうか?やはりM香は俺にとって特別な
      存在なのだ。俺は開けてはいけない箱を開けてしまったのかもしれない。

      つづく


だせえ  投稿者:だせえ君  投稿日:08月07日(水)12時08分09秒  ■  ★ 

      8月7日(暑い)

      「Y雄、ゴルフ始めたんでしょ?今度練習場へ連れてってよ」この一言が無かったら
      M香とはあれっきりになっていたと思う。ただ後になって考えると時間帯を【昼間】と
      限定している事が気になった。真夏に練習場へ行くなら涼しくなる夜の方が遙かに良いと
      思うのだが。『土日の昼間って混むじゃん、夜にしない?』と言ったのだが「土日が
      駄目なら平日の昼間でもいいよ、休み取れるし」と言っていたのを思い出した。

      昨日の夜M香に電話して『夜じゃまずいの?』と聞いてみた「夜はね・・電話が
      かかってくるから家にいないといけないの・・」M香の2人目の旦那とは旦那の親が事業に
      失敗して数億円に上る借金が出来てしまい、M香に被害が及ばないように籍を抜いたのだが、
      籍を抜いて別居するうちにM香の気持ちの方も離れてしまい旦那にその事を告げたのだそうだ。
      ところが旦那は「親の借金の事は必ず解決して、それから迎えに来る」と言って勤めていた
      銀行を辞め家業を継いで必死に働いているのだそうだ。

      そして、ほぼ毎日夜の10時前後に電話がかかって来るそうで、思い切って住所と電話番号
      を変えてしまおうかと思った事もあったのだそうだが、M香としても一度好きになって
      結婚した相手でもあるし、そういう関係を断ち切れないでいるのだと言う。
      電話に出なかった場合、次の電話で「どこに行ってたの?」と聞かれるので、その時に嘘を
      つきたくないのだそうだ。

      夜は電話がかかって来るから会えない・・・これと全く同じ事を別の女の子に言われた
      事がある、それも最近のことだ。神様じゃないとしても、どこかで俺の人生を操って
      楽しんでいる奴がいるんじゃないか?本気でそう思ってしまった。

      「この事黙っててごめんね、もう会いたくなくなっちゃったでしょ」
      『いや、そんな事ないよ』「嘘、絶対そう思ってるよ」『この年になれば、みんな色々な
      事情を抱えてるさ』「Y雄も?」『ああ・・・じゃあ昼からにしよう』
      「うん、お昼からなら、ゆっくり会えるから・・いつにする?」
      『また、電話するよ。その時決めよう』

      M香と絶対に別れたくないという元旦那の気持ちも、別れた後ストーカー行為をしたと
      いう一人目の旦那の気持ちも良く分かる気がする。M香という女は絶対に手放したくないと
      思わせる女なのだ。M香と別れた時の死ぬほど辛い思いを再度味わう事になるなら
      もう会わない方がいいのかも知れない。
      あの生徒手帳が縁でずっと会いたいと思っていたM香に再会する事が出来た、それだけで
      十分じゃないか。

      今後、何かあれば続編あり。


だせえ  投稿者:だせえ君  投稿日:08月07日(水)22時32分58秒  ■  ★ 

      一部の偏向的思想を持った関西系の読者より
      「日記中の台詞がクサイ」という指摘がありましたので
      この場を借りてご返答させて頂きます。

      あなた方がそう感じる原因として「関西圏」という言語的、文化的に極めて異質な
      地域にお住まいになっているという点が挙げられると思います。
      試しに以下の例文をお読みになって下さい。

      −−−−−−−−−−−

      「この事黙っててごめんな、もう会わんて思うたやろ」『いや、そんな事ないて』
      「嘘や、絶対そう思うてるわ」『この年になれば、みんなぎょうさん事情を抱えとるもんや』
      「Y雄も?」『そうや・・・ほんなら昼からにしよ』「せや、昼から会わな、せわしないわ・・
      いつにしよ?」『ほなまた電話するわ。その時決めよ』

      −−−−−−−−−−−−

      筆者からすると、高尚な文章が汚い言語で汚されたような気分ですが
      関西圏にお住まいの方々の目には普通の台詞と写るのではないでしょうか?


だせえ  投稿者:だせえ君  投稿日:08月19日(月)03時45分33秒  ■  ★ 

      8月18日(曇りのち雨)

      当日、遅刻しそうになった俺は親父のクルマで出かけた。ゴルフバックが
      親父の車のトランクに入ったままだったからだ。M香の家に行くのは2回目なのに、
      もう何度も通っている道のように感じた。
      M香はゴルフウェアでマンションの玄関から出てきた。

      『高そうなゴルフバッグだなあ、さすが銀行員』M香は保険会社を退社後、
      地方銀行で働いている。「Y雄はナイキのバッグなんだあ、どこのクラブ使ってるの?」
      『アイアンがキャロウェイでウッドはテーラーメード』「ええ?一緒じゃん」
      M香とは持ってるクラブのメーカーも一緒だし、ゴルフのハマリ具合も同程度。
      ついでにゴルフ歴やスコアも同じくらいだった。

      M香の案内で練習場に着いた。フロントで用紙を渡される、紙に名前を書くように
      なっていた。M香の書いた名前を見て一瞬固まってしまった。M香の旧姓は【S藤】だが
      用紙には全然違う名字が書かれていた。打席に着いて靴を履き替えながら聞いてみた。
      『まだ籍は抜いてないんだ?』「・・・ああ、さっきの紙ね・・」『うん』「そう、
      本当は抜いてないの」『・・・そうか』

      俺は5番アイアンを手に取り打席に立った。正直言って、緊張していた。実は
      前の日にも一人で練習場へ行っていた。M香の前で恥をかかないように200球ほど
      打ち込んだのだ。練習場へ行く為に練習するなんて、これが最初で最後だろう。
      一番得意な5番アイアン、アドレスをチェックし、力を抜いて、肩をきちんと回して、
      ゆっくり振り抜く。パシッという音と共にボールは真っ直ぐ飛んでいった。
      「へえ〜、M雄上手だね」まあ、そのうちボロが出るんだろうけど、とりあえず
      恥をかかずに済んだ。

      M香のスイングはとても綺麗だった。さすが運動神経抜群だっただけの事はある。
      中学生の時、クラスでドッチボールをやっていてM香にボールが渡った。周りの奴らが
      冷やかし半分に「Y雄に当てろ!」と言ったのでM香は俺に向かってボールを投げてきた。
      そのボールはとても女が投げたとは思えないスピードで俺に向かって来た。
      何とかキャッチしてM香へ投げ返す、M香は余裕でキャッチすると笑いながら、
      更に凄いボールを投げ返し、俺はボールをキャッチ出来ずに外野へ出されたのだった。
      その時はみんなに冷やかされた恥ずかしさと、女の投げたボールをキャッチ出来なかった
      悔しさと、笑いながら俺にボールをぶつけてきたM香に対するちょっとした不満とで
      複雑な気持ちだった。
      俺はそんな事を思い出しながらM香のスイングを眺めていた。

      俺たちは15分ボールを打って30分休憩といったペースで、色々な話をしながら
      練習をした。好きなプロゴルファーのこと、仕事のこと、株のこと、同級生の消息についてや、
      家族の話など。だけど、さっきフロントで書いた名字の事は俺からも向こうからも
      切り出さなかった。

      つづく


だせえ  投稿者:だせえ君  投稿日:09月02日(月)00時59分21秒  ■  ★ 

      9月1日(晴れ)

      練習場を出てクルマに乗り込んだ。M香の家に向かってクルマを走らせながら、
      何と切り出せば良いのか迷っていた。前みたいに『どうする?』とか言ったら、
      また「犬がいるから帰らななきゃ」とか言われそうな気がしていたのだ。
      するとM香のほうから「お腹空かない?」と言ってきた。ちょっといい感じの
      アジア料理の店で食事をし、M香を家まで送ると「犬を散歩に連れていかなくちゃ」
      と言うので、俺も付き合う事にした。

      犬は雄のミニチュアダックスフンドだった。『名前は?』「タクロウっていうの」
      『たくろうか(笑)』「なんで笑うの?」『たくろうっていう友達がいるんだよ』
      「そうなんだ」タクロウは人見知りをする犬で、最初は俺から逃げ回っていたんだけど、
      30分くらい一緒に散歩すると大分俺になついてきた。
      散歩が終わってM香のマンションに着いた。俺は何も言わなかったんだけどM香は
      俺の考えてる事を見透かしたように「ごめんね、電話がかかってくるから」
      すまなそうに、そう言った。時計を見ると10時10分だ、俺が『じゃあ、またね』と言うと
      M香は怯えたような表情で通りの方を見ている。『どうしたの?』と聞くと黙って首を振り
      「気を付けて帰ってね、着いたらメールちょうだい」と言ってマンションの中へ入っていた。

      クルマの方へ歩きながらM香が見ていた方を確かめてみると、そこには緑色のレガシイが
      スモールランプを点けて停まっていた。運転席にいる男が、こちらの方を見ているような
      気がしたが暗い場所だったので、はっきりとは判らない。道路沿いのコインパーキングから
      クルマを出す為に料金を機械に入れている時も背中に視線を感じた。もしかしたら、あの
      レガシイには前の旦那が乗っているのだろうか?

      親父のクルマだったので、相手にナンバーを見られないようにライトを点灯させないで
      パーキングからクルマを出した。後ろから追ってこないことをルームミラーで確認しながら、
      面倒なことになったなと思っていた。

      つづく


だせえ  投稿者:だせえ君  投稿日:09月03日(火)00時15分26秒  ■  ★ 

      9月2日(晴れ)

      それから数日後、翌日にゴルフの約束があったのだが、M香の家は俺の家より
      ゴルフ場に近いので家に泊めてもらえないか、ダメ元で携帯にメールを出して聞いてみた。
      しばらくしても返事が来ないので諦めかけていたところへ「狭いところだけどそれで良ければ、
      どうぞ」意外な事にOKの返事が来た。

      夕方、マンションの下に到着して電話をする「夕食はカレーでいい?」『いいよ』
      「じゃあ買い物に行こう」『うん、じゃあこのまま待ってる』女とスーパーで買い物なんて
      久しぶりだった。しかも十数年前に別れた女である。

      当時、M香が急に別れたいと言い出した時、別れたくないという気持ちも当然あったけど、
      どうして自分と別れたくなったのか、それをM香の口から聞きたいと思った。しかしM香は
      「あなたには私よりも相応しい人が、きっといるから」という訳の分からない返事しかしな
      かったのだ。

      M香から別れ話が出たのは、その日と同じく8月中旬だった、夕立の土砂降りの中、
      M香の家の前で半べそをかきながら立ちつくしていた情けない自分の姿を思い出しながら、
      M香が降りてくるのをクルマの中で待っていた。M香が降りてきて「お待たせ」と言って
      クルマに乗り込んできた「野菜カレーでいい?」『えええ、それは勘弁してくれよ』
      「相変わらず好き嫌いが多いのね、子供みたい」M香は昔から母親のような口の利き方を
      するところがあった。

      クルマを走らせてすぐに空が暗くなり、雨のしずくがフロントガラスに当たる。M香が
      「さっきまで晴れてたのに・・洗濯物大丈夫かなあ」と言った。あっという間に土砂降りに
      変わり雨が激しくフロントガラスを叩く。俺はワイパーのスイッチを入れながら
      『おいおい、出来すぎだろ・・』と独り言を言った。

      つづく


だせえ  投稿者:だせえ君  投稿日:09月06日(金)02時47分10秒  ■  ★ 

      9月5日(晴れ)

      買い物を終えてM香の家で料理にとりかかった、玉ネギや肉を炒めるのは俺がやって、
      他はM香に任せた。2人で料理をしていると何故かタクロウが怒って吠え始める。
      2人で代わる代わるタクロウをあやしながら料理を続けた。何とも言えない幸せな時が
      流れていた。

      食事を終えてTVを見ているとチャイムの音がした。音量が小さかったしM香が
      インターフォンを取ろうとしないので隣の家の音が漏れているのかと思った。
      もう一度音が鳴ったが相変わらずM香はTVを見ている。タクロウが吠えたのでM香が
      タクロウに「シーッ、吠えちゃダメでしょ」と言っている。
      何となく気にかかったけど俺は何も言わなかった。

      M香が食事の後かたづけをしている間、俺がタクロウと遊んでいるとM香が
      「どうしてタクロウばかり構うの?」と言いながら抱きついてきた。その時また
      チャイムの音がしたがM香は全く気にしていないようだった。
      やはり隣の家の音なんだろうか?と思い俺もその音は無視していた。

      寝る時間になってベッドの中でM香が「さっきのチャイムだけど」と切り出した。
      『隣の家じゃなかったのか』「ストーカーなの」『前の旦那?』「旦那と別れた後に
      付き合った人」『緑のレガシイに乗ってる奴か』「・・・どうして知ってるの?」
      『この間マンションの前に停まってたじゃん、俺の方を見てたし』「そうなんだ・・」
      『今度見かけたら、俺が話しつけてやるよ』「やめて」『なんで?』「刺されるよ」
      『俺が?』「ううん私が・・」

      翌朝、歯を磨きながらバルコニーに出ると表の通りに緑色のレガシイが停まっていた。
      俺が絶句していると「どうしたの?」と言ってM香もバルコニーに出てきた。
      M香はレガシイを見ると溜息をついて「コーヒー入ったよ」と言って部屋の中に戻って行く。
      俺は黙って後に続いた。

      つづく



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だせえわーるど@本店 からの転載をまとめたものです。


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